繁忙期には毎日のように取材に出掛けるが、すると書くべき原稿が溜まってイライラしてきて、一つ一つのインタビューをいい加減にやり過ごしてしまいがちになる。
そういうやっつけ仕事みたいなのは良くない。私は自分が決してそういうことをしないよう、取材に出掛ける時、「今日はどんな話が聞けるんだろう」と思って取材相手のことを想像するようにしている。
取材は一期一会。その日、その時に初めて会って話を聞く相手は、その後死ぬまで会わない人が大半。だから一回一回の取材の時間を大切にして、決していい加減にやり過ごさないようにする。
仕事が溜まると往々にして一個一個が拙速になってしまいがちだ。私はどちらかというと「拙速を尊ぶ」タイプだが、だからといって拙劣であるのを良しとするわけではない。
仕事を早く終わらせてしまいたい、というのは自分の都合である。しかし取材相手は、滅多にない機会だからきちんと回答しようと準備してきていることが少なくなく、そういう人を相手にやっつけ仕事をするのは失礼である。そうならないために、「今日はどんな話が聞けるんだろう」と、その日の出会いの価値を少しでも高めるおまじないを唱えるようにしている。
するとやはり、その取材は面白くなる。「今日はどんな話が聞けるんだろう」と思うことで、その相手に会うのがワクワクしてくるし、「こんなことも聞いてみたいな」と、一つの取材に独自の視点を盛り込めるようにもなる。
取材に限らず、仕事とは本来そういう姿勢で臨むものではないか。そんな風に思っている。