杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

物語合わせ

図書館で見かけた絵本『虫めづる姫ぎみ』(ポプラ社、2003年)を借りて読んだ。文は森山京、絵は村上豊

堤中納言物語』の「蟲愛づる姫君」といえば、『風の谷のナウシカ』のナウシカのモデルの一つとして有名だし、瀬戸内寂聴も好きな古典のヒロインの一人として挙げていた。興味はあったのだが、恥ずかしながら読んだのは今回が初めて。

毛虫を愛する姫というユニークな主人公。たしかに面白いと思うのだが、短篇ということもあって小咄を読んだような気分だった。

とはいえ、やはり古典として残るだけあるというか(生意気だが)、エピソードが一つ一つ絵になっていて印象に残る。右馬之助から蛇そっくりの贈り物が届くところや、右馬之助と中将が女に変装して姫を見に忍び込むところなど、映像的に面白くて読ませる。やはり、読者が先を読みたくなるための要素として、映像的であるのは欠かせないかもなぁと思った次第。

解説は西本鶏介という人が書いているのだが、その中に

 みじかくても見事な物語性をもっているのは読者をまえにして、みずから読み聞かせるための物語として書かれたからで、いわゆる「物語合わせ」からうまれた作品といわれています。「物語合わせ」というのはめずらしい物語やあたらしい物語に歌をそえてだしあい、その優劣を決める遊びで、平安時代の宮中で暮らす女性たちのあいだで流行したといいます。今日の言葉でいうなら物語コンクールみたいなものです。

とある。要するに小説の新人賞みたいなものかな。すると新人賞は遊びか。人生を左右するかも知れない遊びだろう。

映像的、物語性、珍しさ、新しさ、そして遊び。なるほどなぁと思った。