杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

書きたいから書く。

アメリカ探偵作家クラブ編、ローレンス・トリート著「ミステリーの書き方」(大出健訳、講談社1984年)の「はじめに」の次の文章に共感した。

 作家をつかまえて、なぜ書くのかときいたら、生活のためという答えが返るだろう。それも、普通はぜいたくができるほど稼げるわけでもない。が、もっと金になる仕事の口があると誘ってみても、黙って背を向けるだろう。断る理由を言わないのは、口で説明できないほど自分の仕事にほれ込んでいるからだ。
 わたしたち作家は書きたいから書くのである。

私は作家の仕事で生活できているわけではないが(いちおうライターという肩書きで会社勤めをしている)、他にもっと儲かる仕事を紹介されても気が乗らないだろうし、そんな時間があるなら書き物を進めたいと思う。

口で説明できないほど、というのもその通りだと思う。自分が書いた小説は他にどこにもない、ワクワクするし深い味わいもある作品だと思っている。また、興味のある題材について調べ、まだ他に誰も指摘していない事実を見つけ、ノンフィクションとして書いて発表するのも楽しい。しかしそういう楽しさは、書き物よりも金になる仕事を紹介してくるような人にはほとんどどうでもいいことだろう。けれども、どうしてそんなにコツコツ書いてるんだ?もっと儲かる仕事があるぞ、などと言われても、取り敢えず生活できていれば別にやりたいとも思わない。

作家というのは他人にとっては、調べ物と書き物ばかりしている、合理的でない変な奴かも知れない。実際その通りだと思うが、当人はそれで充実していて他人に迷惑もかけていないなら、愛すべき存在ではないかとも思う。