杉本純のブログ

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佐伯一麦と「Hさん」

味わいのあるエッセイ

朝日新聞4月13日朝刊23面に、佐伯一麦のエッセイ「想 ケヤキのハンモック」が掲載されています。「想」というタイトルで、作家が月替わりで第2水曜にエッセイを載せる企画らしく、他に俵万智桜木紫乃が執筆します。だから次回の佐伯の文章は7月に掲載されることになります。

「耕せど 風は冷たい春」という見出しがつけられた今回のエッセイは、Hさんという、印刷工場を経営していた、すでに故人である年長の知人の思い出が語られています。Hさんは、佐伯の自宅の窓から見える場所に半世紀近く前にケヤキを植え、当初はハンモックを吊るそうとしていたようですが、結局その望みはかないませんでした。

コロナ、地震、戦争という災いが相次ぎ、現在も進行している中、佐伯は生前のHさんに倣って庭仕事をする。チャペックの『園芸家12カ月』をお手本にして庭を耕し、クリスマスローズを植えたが、クリスマスローズの原種の一つの自生地がウクライナだったことを知り、チャペックがファシズムに抗った作家だったことを思う。

いろんな要素をうまくつなげ、間接的にウクライナの戦争への思いを述べています。薄味だとは思いますが、じっくり読むと、それなりの味わいがあります。

この「Hさん」は、誰か。佐伯の私小説にも登場しているかも知れず、ちょっと調べてみたい気がします。佐伯は一つのネタで小説やエッセイなど複数の書き物をすることがあるので、このHさんも他の文章にも出ているのではないかと思います。