杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

2021-05-01から1ヶ月間の記事一覧

エッセンシャルな思考

グレッグ・マキューン『エッセンシャル思考』(高橋璃子訳、かんき出版、2014年)は、以前ようつべで知って読みたいと思っていた本。本質を見極め、そこに力を集中的に投下するという、エッセンシャル(本質的)な思考と行動について説くビジネス本だが、「…

アスベスト訴訟最高裁判決と佐伯一麦

5月19日(水)の朝日新聞・天声人語は、アスベスト被害の訴訟で最高裁が建材メーカーに賠償責任があることを認めたニュースについて述べている。その冒頭、佐伯一麦が1980年代に電気工として働く中でアスベストの粉じんを吸い、胸を患ったエピソードが紹介さ…

合成の誤謬雑感

ミクロの視点では合理的な行動でも、それが合成されたマクロの世界では好ましくない結果が生じること。そんな言葉があったのね。証券用語であるらしい。例えば、ある人が貯蓄をすれば、その人は資産が増えるが、全員が同じように節約すると国全体の消費が減…

一発逆転幻想

築山節『フリーズする脳』(生活人新書、2005年)は、実際にあったらしい、脳が機能低下してボケていったケースを複数紹介して、その要因として考えられることや対処法を紹介する本。最後に紹介されているケースは、就職難の時代に不本意な会社に入り、これ…

藝術とは…

バルザック「ニュシンゲン銀行」(『バルザック人間喜劇セレクション』第7巻(藤原書店、1999年)所収、吉田典子訳)に、こんな台詞がある。 かのモリエールの『人間嫌い』なる至高の喜劇は、『芸術』とは、針の切っ先に宮殿を建てるところにあるということ…

バルザックはタイトルが下手か

バルザック『あら皮』(小倉孝誠訳、藤原書店、2000年)の植島啓司と山田登世子による巻末対談の冒頭、植島が以前に『セラフィタ』や『谷間の百合』を読んでいた、当時はあまりバルザックは読まれなかった、と言い、山田がこう言う。 『谷間の百合』は退屈で…

「ニュシンゲン銀行」とバルザックの語り

バルザックの中篇「ニュシンゲン銀行」(『バルザック人間喜劇セレクション』第7巻(藤原書店、1999年)所収、吉田典子訳)を読んでいるのだが、これまで読んできたものも合わせて、バルザックの語りのバリエーションの豊富さはすごいなぁと、改めて感じてい…

クリエイターと脳

築山節『フリーズする脳』(生活人新書、2005年)は、思考や言葉が、コンピュータがフリーズしたように止まってしまうケースをいろいろと紹介していて、古い本に入るだろうが面白い。 その第七章は「クリエイティブな能力を失うとき」で、文章が思い浮かばな…

頑固なのは誰か

築山節『フリーズする脳』(生活人新書、2005年)を読んでいる。本書には「思考が止まる、言葉に詰まる」という副題がついていて、私自身がそういう経験があるので内容にはかなり興味があった。そもそも私は築山先生の『脳が冴える15の習慣』や『脳と気持ち…

自分という船

築山節『脳と気持ちの整理術』(生活人新書、2008年)を読んだ。時間があるときに拾い読みするように読み続け、このほどようやっと全篇読んだ。 多量の情報がめまぐるしく飛び交う現代において、どう脳を使い、感情をコントロールして生きていくか、そのコツ…

麻痺の代償

大原扁理『年収90万円でハッピーライフ』(ちくま文庫、2019年)は、内容はタイトルの通りなのだが、良書かどうか、判断が難しい本である。一つの考え方・生き方としてユニークな気がするが、この本にあることを本気で参考しようとすると、難しいところがけ…

本には書かなかったあとがき3『藝術青年』

小説集『藝術青年』に収録した二篇「映画青年」と「焦げてゆく記憶」は、前者は最近ある文学新人賞に応募し落選した作品、後者は九年ほど前に所属していた同人誌に発表した作品です。 いずれも、学校で映画を学び、将来は藝術家として生きることを志す若者――…

本には書かなかったあとがき2『東京の家族』

シナリオ集『東京の家族』に収録した二作「東京放浪記」と「東京旅行」は、いずれも日本映画学校(現・日本映画大学)在籍時に書いた脚本です。「東京旅行」は、姉妹ブログ「杉本純の創作の部屋」にも掲載しています。今回の書籍化するにあたり、二作とも若…

本には書かなかったあとがき1『こぼれ落ちた人』

小説集『こぼれ落ちた人』は、5月16日の文学フリマに出品した。当初は巻末に「あとがき」を掲載する予定で、下の文章をしたためたが、なんとなく気が進まず、やめた。たぶん、駄作であることの言い訳を載せるようで、恥ずかしいと思ったんだろう。 こうして…

第三十二回文学フリマ東京に出店しました。

昨日、文学フリマに初めて出店し、小説集とシナリオ集を計三冊出品した。 11時少し前に東京流通センターの第一展示場に着き、出店者入場者証を提示して入場。自ブースのテーブルに敷き布を敷き、作品を並べ、あらすじを書いた看板を立てて準備を完了した。ブ…

パレートの法則雑感

ようつべのビジネス動画でパレートの法則について言及されていた。すなわち、ある課題に取り組んで100点を取るために10時間かかった場合、80点までは2時間で達成していたが、残りの20点を取ろうと頑張ったために10時間かかってしまった、ということ。そうい…

マニュアルとルール

E.パントリー『親業完全マニュアル』(幾島幸子訳、岩波書店、2003年)という本がある。子育てをする過程で遭遇するであろう、さまざまな事象に対し、それをどう受け止めるべきか、またそれへの対処方法がいくつかずつ紹介している。私自身が親業をやってい…

好きこそ物の変態なれ

ようつべで大原扁理『年収90万円でハッピーライフ』(ちくま文庫、2019年)を知り、さっそく読んでいるのだが、前半で強く共感する箇所があった。 英語は本当に好きだったから、家じゃテレビを副音声(英語)にして家族にウザがられ、イギリス人のAET(英語…

グリーンドームねったいかんリフレッシュオープン

4月20日、昨年から修繕工事のため休館していた「板橋区立熱帯環境植物館(グリーンドームねったいかん)」がリフレッシュオープンしたので、先日さっそく行ってきた。 東南アジアの熱帯雨林を再現し、地下にはミニ水族館もある面白い施設で、前からちょくち…

文学研究の盲点

朝日新聞4月25日の文化欄(23面)に、小栗虫太郎が地方紙で連載していた長篇家庭小説「亜細亜の旗」についての記事があった。NHKでは3月2日に報じられていたようだ。 小栗虫太郎といえば『黒死館殺人事件』だが、澁澤龍彦編『暗黒のメルヘン』で「白蟻」とい…

『鉄塔家族』とサードプレイス

小田光雄『郊外の果てへの旅/混住社会論』(論創社、2017年)は本文700ページを超える大著で、元は小田のブログ「出版・読書メモランダム」に2012年から2016年まで連載された記事に加筆修正を加えたもの。1972年度の『農業白書』で最初に使われたとされる「…

読書飢餓

ここ数日は様々な義務に追われ、本を読む時間をほとんどつくれなかった。読書は私の知的・精神的な意味での生活の基礎であり、作品を書くことはもちろん、このブログの記事の源泉にもなっているから、ここ数日は言うなれば、栄養補給ができず、何を生産する…

ライターヲタ

ライターという仕事をしていてこんなことを考えるのはよくないかも知れないが、どうも共感できない、相容れないと思う人に「ライターヲタ」がいる。その人たちは、取材対象やその歴史的背景を知ること、事実の追求に熱心であるというより、ライターの業務そ…

コンパス

かねて、小説を書くことを旅することに例えたら、ストーリーの構成図は地図で、主題はコンパスだと思っている。地図とコンパス、すなわちストーリーと主題がちゃんと頭に入っていれば、筆を進めていて迷うところが出てきても間違いない行路を選ぶことができ…

せどり雑感

「せどり」に興味があったので「新潮45」2015年6月号所収の坪内祐三「高原書店からブックオフへ、または『せどり』の変容」を読んだ。 内容は坪内自身の古書店遍歴が中心になっており、「せどり」について本格的に述べたものにはなっていないように思う。本…

こまっしゃくれる

子供が、変に大人ぶって振る舞う生意気な言動を形容する表現である。「こま」は「細かい」の意味で、「しゃくれる」は、利口ぶるといった意味の平安時代の言葉「さくじる」が転じた「さくれる」が、さらに転じたもの。「さくじる」は「賢しら」と同源らしい…

つまらん作品を最後まで読むか

読んでいる本がとにかくつまらない、ということがある。しかし、まだ半分も読み進んでおらず、このあと楽しく可能性が残されているので読む、ということもあるだろう。研究書とか歴史書とかビジネス本ではなく、小説である。 ある人は、本はたとえ序盤でも表…

モデル思考

生活や仕事などの中で起こる問題を解決しようとする時、たまに「モデル思考」を使っている。これはけっこう効果があると考えている。 例えば、会社の中で起きる問題を考える時、会社を一隻の船として考えてみる。会社という組織は、人が集まって事業をして、…

ドーパミンとオキシトシン

Twitterに「ドーパミン的愛情」と「オキシトシン的愛情」の区別を記した表が載っていて面白かった。 ドーパミンは熱愛や情熱的な愛で高揚感や興奮を伴い、もっと会いたい愛されたいと願い、依存症になりやすく、二、三年で冷めやすいのに対し、オキシトシン…

「コミットしきれない」

或る、脱サラした人のインタビューが新聞に載っていた。その人は会社でシステムエンジニアをやりつつ副業で家具づくりをしていて、そちらが好調だったこともあり、思い切って会社を辞めて家具職人になった。エンジニアの仕事を続けつつウーバーイーツなども…