杉本純のブログ

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文学研究の盲点

朝日新聞4月25日の文化欄(23面)に、小栗虫太郎が地方紙で連載していた長篇家庭小説「亜細亜の旗」についての記事があった。NHKでは3月2日に報じられていたようだ。

小栗虫太郎といえば『黒死館殺人事件』だが、澁澤龍彦編『暗黒のメルヘン』で「白蟻」という短篇を読んだが内容は覚えていない。

今でも漱石や太宰や川端の新資料が発見されることがあるくらいだから、小栗などやや人気が落ちる作家の資料発見は、とうぜんあるだろうと思う。

今回「亜細亜の旗」を見つけた二松学舎大山口直孝教授は、過去に地方紙で横溝正史の『雪割草』を発見していた。その経験から、「地方紙が盲点になっている」と思い調査を継続していたという。それで、出張で訪れた熊本県立図書館で九州新聞(現・熊本日日新聞)で「亜細亜の旗」を見つけたと、朝日の記事にある。

面白い。また「地方紙が盲点になっている」という点は、なるほどと思う。文学研究をしている人がどれくらい地方紙に目を通しているのか、また全ての地方紙を東京で確認するのは本当に不可能なのか、など疑問があるが詳しくは知らない。

ちなみに私は佐伯一麦の厳密な意味でのデビュー作が川崎市の新聞で連載されていたのを神奈川県立図書館で見た。これはそれまでの佐伯関連の文献などでは確認できなかったもので、私としては飛び上がりたくなるほどの発見だった。

地方紙に作家の知られざる作品が見出されることは、当然ながらあり得る。また私は、企業の社内報や社史、組織・団体の機関紙などにも研究者が知らない作品や文章が掲載されていることもあるだろうと思う。私は以前、地元の町の自治会史を読み、近所に芥川賞候補の作家が住んでいたことを知った。

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