小田光雄『郊外の果てへの旅/混住社会論』(論創社、2017年)は本文700ページを超える大著で、元は小田のブログ「出版・読書メモランダム」に2012年から2016年まで連載された記事に加筆修正を加えたもの。1972年度の『農業白書』で最初に使われたとされる「混住社会」=郊外について、小説や漫画をはじめとする様々な書物、映画などの作品を通じて考察し、論じている。
私はこのブログの読者で、じっくり読んで作品を書く参考にしたいと考えているが、とにかく分量が多くてなかなか難しい。このたびは、本書で佐伯一麦『鉄塔家族』を取り上げている章があるので、本を入手してそこだけを読んだ。
『鉄塔家族』を論じるに際し、小田は「サードプレイス」というテーマを設定している。「サードプレイス」はレイ・オーデンバーグの本(みすず書房)の名前で、その原題は“THE GREAT GOOD PLACE(とびきり居心地よい場所)”である。小田は、『鉄塔家族』の主人公が、地元にいくつもの「とびきり居心地よい場所」を見出すことに成功しているとし、さらに、庄野潤三『夕べの雲』、小島信夫『抱擁家族』、黒井千次『群棲』などの「先行作品の集大成」であることを仄めかしている。それ自体は、面白い読み方だと思うし、庄野や黒井の名が出てくるあたりも興味深い。が、佐伯一麦の小説はやはり、主人公が主に二十代の頃に関わった人々との濃密かつ不如意な人間関係が読みどころじゃないかと思う。
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