杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

ライターヲタ

ライターという仕事をしていてこんなことを考えるのはよくないかも知れないが、どうも共感できない、相容れないと思う人に「ライターヲタ」がいる。その人たちは、取材対象やその歴史的背景を知ること、事実の追求に熱心であるというより、ライターの業務そのものに特殊なこだわりを持っているらしい、言わばヲタで、中には自己陶酔的な人もいる。なお「ライターヲタ」は、私の命名である。

どの点が自己陶酔的かというと、取材の仕方とか原稿の書き方に関する持論を展開する、あるいは仲間と酒を飲みながらそういうことを語り合うのが好きなのである。要するに「自分語り」に酔っているのである。

私は歴史を学ぶのが好きだし、特定の時代・地域、あるいは人物に関わる事実を調べ、まとめて書くことに興味があって、実際にやっている。自分の興味のあることを知っている人になら、会って話を聞いてみたいし、教わりたい。また、著作がある人には、私がその作品に興味があったり聞いてみたいことがあったりする場合、会って話したいと思う。そうでない相手には、それはない。

以前ある俳優が、役者は集まるとすぐ芝居の話を始めるが、自分はそれが肌に合わない、と言っていて、共感した。きっと、その役者同士の芝居話とは「自分語り」の応酬で、その人たちは「役者ヲタ」なんだろうと思った。

かく言う私も、映画学校時代は映画を語ることを通じた「自分語り」が好きだった。相手に「自分語り」を聞いてほしいから、相手の語りも聞く。そこは抽象的な観念の世界で、お互い大した意味もなくリスペクトし合っていたように思う。自己陶酔の映画ヲタ学生だったんだろう。

「思い」を語り合う場は、往々にして空虚である。私は「事実」を相手に提供したいし、相手から提供されたいと思っている。

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