杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

一発逆転幻想

築山節『フリーズする脳』(生活人新書、2005年)は、実際にあったらしい、脳が機能低下してボケていったケースを複数紹介して、その要因として考えられることや対処法を紹介する本。最後に紹介されているケースは、就職難の時代に不本意な会社に入り、これでは負け組になってしまうと一念発起し、司法書士になろうとして脱サラ。勉強に専念するが合格できず、以降、意欲と集中力と記憶力を低下させていった、という例。

その人はいわゆる「勝ち組」志向の人なのだが、同窓会で旧友が出世しているのを知り、「もう後戻りできない」と感じてしまう。築山先生は、そういうところが発想が極端だと述べている。

まだ二〇代ですから、冷静に考えれば、取り返しがつかないなどということはないはずです。年収や役職では負けているけれど、自分にはこういうプラス材料がある、何歳までにこうなっていれば差が縮められるはずだ、と。そうやって状況を分析し、計画を立てて差を埋めていこうとするのが理性的な考え方でしょう。それをしないで、いきなり勝ちか負けかで判断し、一発逆転しかないと考える。これは明らかに感情系の動きです。司法書士になろうと思い立ったのも、そういう発想からきているように感じられます。

「一発逆転」という言葉には、ドキリとさせられた。というのは、私自身、小説の新人賞を取って作家になろうと思った背景には、周囲の気にくわない連中に対し、一発逆転ホームランをぶちかましてやりたい、という思いがあったのを否定できないからだ。

一発逆転ホームランは、実在する。そういう事例を紹介するテレビ番組もある。しかし実際のところ、逆転ホームランなどちょうど野球で考えれば分かるように、偶然に偶然が重なってしか実現しないことだ。期待などしてはいけない。