杉本純のブログ

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「それって逃げですよね」

最近読んでいる長沼睦雄『敏感すぎて生きづらい人の明日からラクになれる本』(永岡書店、2017年)は、HSPが日常生活で遭遇する様々なケースを紹介し、その捉え方と対処法のヒントを提供する本です。

ケース38は、仕事が自分に向いていない気がして転職を繰り返してしまう、というもの。HSPは敏感であるがゆえに組織の中でマイナス評価を受けることが多く、我慢しているとつらさが体の表面に現れて限界を迎える、とあります。そして、

 そして仕事を辞めようと思い、相談すると「それって逃げですよね」などと言われ、もっと悔しい思いをします。そんな時は、わかってくれない相手を責めたり、どうしようもない自分を責めるよりも素直に自分を認め、つらい思いをしたことを吐き出し、逃げる自分をも許して心を空っぽにして、次のステージに向かいましょう。社内での仕事がスムーズに回るかどうかや世間体よりも、あなた自身を守ることのほうが、ずっと大切です。

と述べられています。

この「それって逃げですよね」が誰から発せられる言葉なのか、本書には具体的に書かれていません。恐らく「退職を相談するくらい身近で親しい人」全般でしょう。家族とか友人とか。

相談された人が相談者をHSPだと認識していなければ、仕事を辞めようとするのを「逃亡」と見るのはある意味で当然のことのように思います。相談者が、自分は辛いと思っていない仕事に音を上げ、辞めたいと言い出したのだから、情けない奴だ、となるのは当たり前でしょう。だから相談相手を責める必要はないと私も思いますし、かといって、自分を責めてさらに頑張ろうとしなくても良いと思います。

ですが、仕事を辞めたとしても、次に何をするのか、収入はどうするのか、などなど、今の仕事から逃げることによって必然的に次の問題が発生してきます。本当の問題はどちらかというとそっちではないかと思います。特に、結婚して子供もいて、パートナーが家事専業かパート程度しかしていないとなると、家計の問題は決して小さくない。転職がすんなりできればいいですが年齢とともにそれも難しくなるでしょう。また、転職すれば環境が改善されるわけでもありません。

『敏感すぎて…』には「セルフケアのコツ」として「どんな職場で働くことが理想か、把握しておく」とあります。その通りだと思いますが、どこかに勤める限り職場の人事権は他人が握っているため、自分にとって思わしくない人と一緒に働かなくてはならない事態が発生する可能性が常にあるわけです。考えれば考えるほど、HSPは起業するしかないのでは?と思ってしまいます。