「いい人なんていない」
武田友紀『雨でも晴れでも「繊細さん」』(幻冬舎、2021年)は、著者の武田さんが「がっつりノウハウを読みたいわけじゃない。でも、ちょっと役に立って、ほっとくつろげる話」と書いているように、「繊細さん=HSP」向けに書かれたライトなエッセイ集です。手軽に読むことができます。
その中で「『いい人』『悪い人』なんていない(1)あいまいさに耐える力」という見出しが書かれた文章に、面白い箇所がありました。
武田さんがかつて一緒に仕事をした人の中に、いい人なのか悪い人なのか分からない人がいて、武田さんは結果的にその人に振り回された形になり、ヘトヘトになったそうです。それである人に相談したところ、
「武田さん、もしかして『いい人』が存在すると思ってない? いい人なんていないんだよ。いい部分があるだけだよ。牛の模様みたいにまだらなんだよ」
と言われたのだとか。最初はその意味が理解できなかったが、やがて良いところと悪いところをそれぞれ在るものとして受け入れられるようになったようです。
是々非々をきちんとする
良いところと悪いところが「牛の模様みたいにまだら」というのは面白く、言い得て妙だと思いました。
人間、丸ごと善という人もいないし、その逆もない。皆それぞれいびつで不完全で、その特徴が良い結果を生むことがあれば、悪い結果を生むこともある。だから人と接するには是々非々をきちんとするのが良いと思います。
余談ながら、私の実感ではこの是々非々がない人が存外多く、自分の好きな人は常にどんな場合でも正しい、みたいに思っている人がけっこういます。そういう人は、牛のまだら模様が見えず、白一色か黒一色にしか見えていない、ということでしょう。
相手の嫌なところを一度「嫌だ」と思ってしまうと、好きなところが出てきた時も「嫌だ」で塗りつぶしてしまいがちです。嫌だと思った相手の良いところを認めるのはけっこう難しい気がします。上記引用箇所を読んでいて、武田さんが理解できなかったというのはそういうことじゃないかな、と思いました。
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小説「映画青年」(13)★ついに最終回です!