杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

2020-08-01から1ヶ月間の記事一覧

迷妄ほど恐ろしいものはない。

私の恩師の一人は、たしか戦前の生まれで、聞いたところによるとたいそうな「豪傑」だったらしい。柔道をやっていて喧嘩は強く、そして勉強もよくできた(早稲田卒)。本人がそう言っていたのではなく、恩師と同年の知人がそう評していたのである。 恩師は、…

「雛の宿」の冒頭

こいつは少々、童話めいた話でもあるし、おままごとじみた物語でもある。しかし僕は現実にその童話のなかに生きたのだし、日頃の僕が大法螺吹きだということを知らない君なら、きっと信じてくれるだろうと思う。 三島由紀夫の短篇「雛の宿」の書き出しなのだ…

決めなくていい。

最近気づいたことだが、「判断」という行為はエネルギーが要る。というのは、判断に必要な諸要素を揃え、メリットとデメリットを整理するのがけっこう面倒だからである。 例えば、会社を辞めるか辞めないか、結婚するべきかせざるべきか、独立するかしないか…

『夏の終り』

瀬戸内寂聴の『夏の終り』(新潮文庫、1966年)を読んでいる。これは瀬戸内の私小説集ということなのだが、私は瀬戸内のことは詳しくなく、テレビで見るあの明るい瀬戸内にこれほど辛い時期があったのかと思っている。 この小説に描かれる三角関係(四角関係…

佐伯一麦と水上勉

水上勉の長編小説『飢餓海峡』は1963年に完結し、1965年に映画化された。監督は内田吐夢である。佐伯一麦は映画を観て興味を持ち、次いで小説を読んだ。佐伯が初めて読んだ水上の小説が『飢餓海峡』である。 その経緯が、『からっぽを充たす』(日本経済新聞…

小説と大説

佐伯一麦『からっぽを充たす』(日本経済新聞出版社、2009年)の「かわたれどきの色」には、字数としてはわずかだが、「小説」に対する自身の姿勢を述べている箇所がある。 小説は、「大きな説」ではなく、現実を生きた姿として捉え、ささやかな夢や温かい人…

過去を語ること

ある人が、昔話ばかりする間柄の友人は不要だと言っていた。それを聞いて、はっとした。振り返ってみると、私はこれまで会社の同僚や家族や旧知の人と、だいたい昔話ばかりしていたような気がする。 昔話はたいてい美化されているので、話しているととにかく…

one of themでもいい

one of themは「その中の一つ」「大勢の中の一人」という意味で、ビジネスの場で批判的に用いられるのをしばしば眼にする。新しい商品やサービスを生み出そうとする時、それは他社では出していないものにしなくてはならず、どこでも出しているようなものなら…

毎日書くこと8

本ブログの記事数が900件に達した。だからなんだと言われれば何もないのだが、まぁいちおう一つの節目として記事にしておこうと思った。 ここのところはコロナで外出をあまりせず、また残暑の暑さと公私にわたる忙しさとでけっこうばて気味になり、鬱々とさ…

ショートスリーパー

堀忠雄『安眠健康術』(海竜社、2011年)の、エジソンがショートスリーパーだったことが書かれた箇所を読んで、かつて一緒に仕事をしていた人を思い出した。 その人については悪い思い出の方が圧倒的に多く、私は今も怨恨の念を持っているほどだ。とまれ、そ…

作家になりたいのか、作品を書きたいのか。

ある人が、作家になるには執念がないと駄目で、家族や友人に配慮しているようではいけない、といった意味のことをSNSで書いていた。大いに共感するのだが、ちょっと考えさせられる部分もある。 というのは、「作家」という職業はけっきょく書くことが全てな…

オーナーシップ

西村佳哲『自分の仕事をつくる』(晶文社、2003年)の「まえがき」と「あとがき」を読み、その他の部分もぱらぱら読んだ。 本書は、さまざまな人に、その「働き方」を聞いて回ったものだ。そして、一人一人が「いい仕事」を手掛けられるようになることを著者…

映画『最高の人生の見つけ方』を観た。

映画『最高の人生の見つけ方』を観た。これは2007年にアメリカで公開された映画で、日本では2008年に公開された。主演はジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマンで、監督は『スタンド・バイ・ミー』のロブ・ライナーである。日本ではこれを原案にしたリ…

『東京マニアック博物館』

町田忍監修『東京マニアック博物館』(メイツ出版、2018年)が面白い。これは、東京にある珍しいテーマの博物館を紹介するもので、私のような物好き人間にはたまらない本である。 紹介記事の形式は、1から2ページの写真付き記事と、施設名と概要だけを羅列し…

佐伯一麦と喫茶店2

先日、このブログで佐伯一麦と喫茶店の関係について書いた。 かつて仙台に「田園」という喫茶店があり、脚本家の内館牧子が叔父から経営をやってみないかと誘われたもののクラシックが苦手なので断念したが、その店は佐伯の人生の分岐点の舞台の一つだったの…

佐伯一麦と小出裕章

佐伯一麦と工学者の小出裕章が、2011年12月に対談した。そのことを私は佐伯『月を見あげて』(河北新報出版センター、2013年)の「蕎麦屋にて」で知った。 「蕎麦屋にて」には「総合雑誌で、小出氏に反原発の人生を語ってもらう企画があり、私にインタビュア…

『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』を観た。

この映画は、ある人が昭和ノスタルジーを描いたある映画を批判する一方で、この『オトナ帝国の逆襲』はちゃんと風刺になっていた、と言い、またある経営者が、人生が好転する映画としていくつか紹介した中で1位に挙げていたので、観たいなぁと長いこと思って…

アウェイ

梶本修身『「疲れリセット」即効マニュアル』(三笠書房、2017年)は、図書館で見つけて興味深かったので手に取った。梶本先生は最近テレビでよく見る人で、私はイミダペプチドが疲れに良いということを先生によって知った。 ぱらぱらと読んだ中で眼を引いた…

孜孜

ある人からのメールで貰った言葉である。私の創作活動を応援する意味で、孜々として取り組むべし、みたいに書かれていたと思う。初めて見た時はなんと読むのか分からず、「えいえい」とか「ぼくぼく」とか読んでいたと記憶する。読みは「しし」で、「熱心に…

静かな盆

今年の夏休みは巣ごもり生活になりそうだ。コロナ感染を恐れて外に出ない、というのもないわけではないが、コロナ禍によって色んな店や施設の営業方針や時間が変わっていて、それをいちいち調べるのが面倒で予定を立てなかったからだ。静かな盆である。 この…

佐伯一麦と喫茶店

佐伯は喫茶店が好きなようで、随筆に時おり喫茶店の思い出などが語られることがある。ちなみに佐伯が前妻と出遭った店は、その元妻とのことが書かれた私小説を事実だとすると、夜はスナックになる高田馬場の喫茶店である。 『月を見あげて』(河北新報出版セ…

里見弴と瀬戸内寂聴2

先日、このブログに里見弴が瀬戸内寂聴との対談で話したことを書いた。その対談は、調べてみると「書いた、愛した、遊んだ九十年」というタイトルで、「新潮」1982年7月号に掲載されたものだと分かった。現在は『生きた 書いた 愛した 対談・日本文学よもや…

或る日の夕暮れ

或る日、西の空に落ちていく太陽を見た。 いつもなら何も考えずぼーっと眺めて感慨に浸るのだが、その日はそんな時間すら惜しい状況だったので、撮影だけしてその場を後にした。 考えてみると、夕暮れをぼんやり眺める時間もないほど忙しないなんて、嫌だな…

里見弴と瀬戸内寂聴

佐伯一麦『月を見あげて』(河北新報出版センター、2013年)の「落花の風情」は、佐伯が育てた椿が花をつけたことが話題だが、後半は里見弴の短篇「椿」について書かれていて面白い。 「椿」は原稿用紙8枚ほどの短篇で、「改造」1923年11月号に掲載されたが…

書くことだけが人生だ

「サヨナラだけが人生だ」というと、映画学校出身の身としては今村昌平と川島雄三がまず思い浮かぶ。井伏鱒二や林芙美子のことも思い出される。元々は中国の詩らしいが、詳しいことは知らない。 今までたくさんの人と、サヨナラしたつもりはないが実際はサヨ…

コツコツ

私が制作に関わった書籍(私家版)が今年発行され、先日、その本を取材した新聞記事が出た。制作に関わった一人としてはうれしい。 調べ物や書き物は孤独な行為であり、自室でそれをコツコツやっていると、時折ひどく寂しくなり、世間から隔絶されたところに…

東大にいた佐伯一麦

『月を見あげて』(河北新報出版センター、2013年)の「樹下に佇む」を読むと、佐伯一麦が2012年の節分である2月3日に東京大学に行っていたことが分かる。東大文学部の加藤陽子の招きで訪れて、話をしたようなのだが、調べてみると、震災後の魂と風景の再生…

福知山城に行ってきた。

先日、福知山市に足を運ぶ機会があったので、せっかくだからと思い、空いた時間を使って福知山城を見てきた。明智光秀の大河ドラマで有名になっているが、福知山城が明智光秀が築いた城だということは恥ずかしながら知らなかった。 築城は天正7年(1579年)…

板橋区立郷土資料館「甲冑刀装」

板橋区立郷土資料館では7月11日から11月23日まで「第19回板橋区伝統工芸展 甲冑刀装」を開催している。板橋区在住の甲冑師、刀剣柄巻師、白銀師の作品を中心に、甲冑や刀剣やその装具を紹介する、ごく渋い企画展である。とはいえ、もちろん見応え十分だった。…

佐伯一麦の「同業者」

佐伯一麦『月を見あげて』(河北新報出版センター)は、現在までに第三集まで出ているが、読み続けていると、佐伯が色んなところに出掛け、対談やら審査員やら講演やらをやり、ベテラン作家として多彩に活躍していることがよく分かる。2013年に出た第一集(…