杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

過去を語ること

ある人が、昔話ばかりする間柄の友人は不要だと言っていた。それを聞いて、はっとした。振り返ってみると、私はこれまで会社の同僚や家族や旧知の人と、だいたい昔話ばかりしていたような気がする。

昔話はたいてい美化されているので、話しているととにかく楽しい。それ自体は悪くないのだが、そういう話ばかりする関係は発展的ではないのだろう。たしかにそう思う。しかし、私は「昔は良かった」話が嫌いなはずなのに、昔話はよくしていたなぁと、ある人の言葉で気づかされたのである。

「昔は良かった」ではないが、過去の出来事にまつわる人への怨恨や不満などをよく口にしていたように思う。思えば、フォークナーの『アブサロム、アブサロム!』をはじめ、優れた文学作品は過去の出来事をくどくどと語るものが少なくない気がする。鷗外「舞姫」や「雁」も、優れているかどうかは別として、一種の昔話である。文学は、過去の怨恨を語るものなのかもしれない。