杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

『夏の終り』

瀬戸内寂聴の『夏の終り』(新潮文庫、1966年)を読んでいる。これは瀬戸内の私小説集ということなのだが、私は瀬戸内のことは詳しくなく、テレビで見るあの明るい瀬戸内にこれほど辛い時期があったのかと思っている。

この小説に描かれる三角関係(四角関係というべきか)の存在は、ずっと昔に瀬戸内を取り上げたドキュメンタリー番組で見て知っていた。井上光晴とのことももちろんだし、『女徳』を書き始めるエピソードなんかも本で読んだ。要は瀬戸内の人生を断片的に知っているに過ぎなかった。ちなみに私はかなり昔、岩手県天台寺に瀬戸内の法話を聞きに行ったことがある。

さて『夏の終り』だが、知子という女が慎吾との不倫が続く中、年下の男(かつての不倫相手)とも関係を結んでしまう経緯を描いた短篇集である。その関係は泥沼めいていて、読むと知子の辛い気持ちが伝わってくる。単純に「好き」なのではない、お互いが強い引力に引っ張られているような関係で、だから痛々しくも見えてくる。瀬戸内は、元々こういう恋愛に陥ってしまう性格だったんだろうか。あるいは境遇がそうさせたのか。などと想像しながら読んでいる。