私小説の書き手として
西村賢太が亡くなりました。54歳。早過ぎる死に驚いています。
2020年には坪内祐三が死にましたが、つい先日に石原慎太郎が死んで、その後を追ったような感じがします。恩人であり理解者でもあった人がいなくなり、西村にとっては精神的に辛い状況だったろうと推察します。
私が西村の小説を読むようになったのは西村が芥川賞を取った後で、例の「そろそろ風俗に行こうかなと思っていた」で有名になりましたが、そういうエピソードよりも私は私小説の書き手として玄人たちが評価しているのを知り、面白そうだと思って読み始めたのです。
とはいえ、私は西村のいい読者ではありません。読んだのは芥川賞受賞作の「苦役列車」の他、『どうで死ぬ身の一踊り』(講談社文庫、2009年)、『小銭をかぞえる』(文春文庫、2011年)、『暗渠の宿』(新潮文庫、2010年)、『二度はゆけぬ町の地図』(角川文庫、2010年)、それから短篇「寒灯」、「芝公園六角堂跡」などの他、対談集『西村賢太対話集』(新潮社、2012年)くらい。また西村は角川文庫で田中英光の選集を手掛けており、その編集過程のエピソードが文藝誌に載ったのも読みました。
かなり癖のある文体で、私はそれは嫌いではありませんでしたが、一連の私小説の主人公である北町貫太のキャラに飽いてくるにつれて西村作品から遠ざかっていったような気がします。
藤澤清造全集は実現せず…
一時期はよくテレビに出て、北町貫太ほどではないにしても憎まれ口を叩いたりして、ちょっと嫌だなぁと思ったりもしました。それは、歯に衣着せぬ憎まれ口が聞き苦しいというのではなく、どことなくポジショントークのように見えたことが要因だったと思います。
また西村が藤澤清造の全集を準備していたことは「小銭をかぞえる」にも出ていて、有名な話です。しかし、芥川賞作家になってからは小説執筆やタレント活動に忙しかったのか、いっかな実現しませんでした。最近はテレビ出演も減っていたので時間はあったのではないかと思いますが、いずれにせよこれで西村編の藤澤清造全集は永遠に実現しないことになりそうです。
「文學界」に「雨滴は続く」を連載中だったはずですが、実際には書き終えているのか、未完のままか…。