杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

2020-03-01から1ヶ月間の記事一覧

王はヤクザか

最近読んでいる佐藤雅彦・竹中平蔵『経済ってそういうことだったのか会議』(日経ビジネス人文庫、2002年)が面白くってしょうがない。経済の素人である佐藤が、プロである竹中からお金とか経済についてごく基礎的なことから教わる対談なのだが、なんという…

映画『二十六夜待ち』評を読む。

「キネマ旬報」No.1767(2018年1月上旬新年特別号)に映画『二十六夜待ち』(越川道夫監督、2017年)のレビューが載っていたので読んだ。 評者は上野昴志、上島春彦、吉田伊知郎の三人で、レビューは★の数で評価されている。★は最大五つで、上野★★★★、上島★★…

ガブリエル・ド・ラスチニャック

『バルザック全集21』(東京創元社、1975年)収録の長篇『村の司祭』(加藤尚宏訳)を読んでいたら、ガブリエル・ド・ラスチニャックという人物が出てきたので、おやっ…と思った。 ラスチニャックといえば『ゴリオ爺さん』の主人公の一人ウージェーヌ・ド・…

レクトゥールとリズール

三島由紀夫の『文章読本』(中公文庫、1995年改版初版)をこないだ久しぶりに読み返したが、チボーデが言ったレクトゥールとリズールについて書かれている箇所が懐かしかった。 チボーデは小説の読者を二種類に分けております。一つはレクトゥールであり、「…

映画『二十六夜待ち』を観た。

映画『二十六夜待ち』(2017年)を観た。主演は井浦新と黒川芽以、脚本・監督は越川道夫である。 原作は佐伯一麦の同名小説で、これは佐伯の作品の中でも指折りの良作だと思っている。その映画化というので楽しみにして観た。 映画は2時間以上あり、小説が無…

小説家の仕事

尾崎真理子が聞き手・構成の『大江健三郎 作家自身を語る』(新潮文庫、2013年)は尾崎による大江への長大なインタビューだが、末尾には「大江健三郎、106の質問に立ち向かう+α」という一問一答コーナーがある。 その五つ目の質問は「ごく普通の一日の過ご…

「水面上」のフィクションと「水面下」のフィクション

宮原昭夫『書く人はここで躓く!』(河出書房新社、2016年増補新版)を久しぶりにぱらぱら読んでいたら、肝に銘じたい箇所が。 ノンフィクション、つまり「削る」フィクションの秘訣は「十調べて一書く」ということだ、と申し上げましたが、同じように、小説…

週末学者、週末物書き。

荒木優太編著『在野研究ビギナーズ』(明石書店、2019年)を読み、ぐさぐさ突き刺さってくるものがあった。 本書は、現役で活躍中の15人の在野研究者が、自身がどのように研究生活を送っているかを述べたのを編んだもの。その序文において編著者の荒木は、在…

本のなかを歩く

3月14日の朝日新聞1面に載っている鷲田清一「折々のことば」は、三島由紀夫の言葉を紹介している。 昔の人は本のなかをじっくり自分の足で歩いたのです。 現代人は小説を「味わう」ことをせず、主題と筋の展開ばかりを追うようになった、と鷲田は三島の考え…

お金の前提

佐藤雅彦・竹中平蔵『経済ってそういうことだったのか会議』(日経ビジネス人文庫、2002年)が面白い。私が読んでいるのは2009年に出た29刷で、かなり売れたんだろうと思われる。 たぶん2005、6年頃に人から勧められ、読みたいと思っていた本だが、ずーっと…

『働く人のためのアドラー心理学』

岩井俊憲『働く人のためのアドラー心理学』(朝日文庫、2016年)を読んだのだが、ためになると思うところがあった一方で、これは困るなぁというところもあった。 これは、仕事を続ける中で神経や心を磨り減らした、「もう疲れたよ……」と思わず言ってしまうよ…

「プレゼンティーイズム」

という言葉があるのを最近知ったのだが、新しい言葉ではないらしい。会社において、出勤している社員が何らかの体調不良を抱えていて、本来のパフォーマンスを発揮できない状態のことを言う。アメリカでは年間1500億ドルの損失が出ているというデータがある…

人生は一回きり?

「人生は一回きりなんだから」は、積極的に人生をエンジョイしている人などがたまに口にしている。そのシチュエーションを見るに、どうも当人の周囲には我慢とか勤勉を美徳に感じている人がいて、だから当人はちょっと浮いた存在なのだが、自身の考えと行動…

書き続けること

鈴木輝一郎『何がなんでも作家になりたい!』(河出書房新社、2002年)は、今から二十年近く前の本だがためになって面白い。 鈴木先生は、現在はどうなのだか知らないが、岐阜在住で、左官コテのメーカーの経営をしているそうな。コテづくりの鍛治をしていた…

羽田圭介と投資

羽田圭介がiDeCoからスタートして投資信託、米国株への投資をするようになった、というネット記事が出ている。「100年大学 お金のこと学部」という日本証券業協会のプログラム?の開学記念特別講座の内容をまとめた、2018年の記事である。 https://www.itmed…

睡眠五時間

吉村昭の『私の文学漂流』(ちくま文庫、2009年)はもうずいぶん前に読んだ本だが、第九章の「睡眠五時間」がやたら印象に残っている。1927年生まれの吉村は1959年頃(つまり32歳くらいの頃)、団体事務局に勤務する傍ら小説を書き続けていて、深夜二時まで…

沈黙

「沈黙は金雄弁は銀」という言葉があるが、これは西洋の諺に由来する、沈黙するのが最上の分別であるという意味である。 社会人として生きていて、この言葉の金言であるのを感じることは多く、必要のない余計なことは話さない方が良く、必要以上に他人の問題…

創作雑記19 まず最後まで書く

もうずいぶん長いこと中篇小説に取り組んでいたが、このほどようやっと最後の一行を書き終えそうだ。どうして長い時間がかかったのかはいくつかの理由があるが、ここで書く必要はない。 小説の書き方本を読むと、たいてい、まずは最後の一文字まで書き終えて…

小説家は何が好きか

鈴木輝一郎『何がなんでも作家になりたい!』(河出書房新社、2002年)を読んでいたら面白い箇所が。 ノムウツカウと言いますが、小説家は『女好き』『バクチ好き』『独り遊び好き』に大別されます。飲むほうは脳に来るので、アルコール中毒になるほど飲むの…

丸二年経過

このブログが始まったのは2018年3月11日である。このほど丸二年が経過した。記事はすでに730件以上あるので、一日一記事以上を書いてきたことは歴然たる事実である。ふふん。 このところはあまり記事のネタが浮かんでこないのだが、それは恐らく脳がひどく疲…

「川が流れるように」

『ことばを写す 鬼海弘雄対話集』(平凡社、2019年)は、写真家・鬼海弘雄が「アサヒカメラ」で行った対談をまとめたもの。相手は、山田太一、荒木経惟、平田俊子、道尾秀介、田口ランディ、青木茂、堀江敏幸、池澤夏樹。編集はノンフィクション作家の山岡淳…

陰謀論者

政府の施策やメディアの報道に接して、これは戦争をやろうとしているんだとか、裏側で操作されているとか、やたらと陰謀論を述べる人がいるが、聞いていてうんざりする。私は性善説よりは性悪説を取る方だが、だからといってそれほど滅多矢鱈に誰それの陰謀…

佐伯一麦と庄野潤三2 ステッドラーの3Bの鉛筆

『庄野潤三の本 山の上の家』(夏葉社、2018年)は庄野の作家案内だが、佐伯一麦の随筆「ステッドラーの3Bの鉛筆」が載っている。佐伯が、徳島県立文学書道館で2014年1月に開催された「庄野潤三の世界展」に足を運んだ時のことと、川崎市の庄野宅を2018年春…

ストーリーとテーマ

最近はようつべで小説の書き方講座の動画をけっこう見ている。すでに別の本で読んだことのある内容が多く、新発見はない。それに、どうやらそれらはエンタメ小説の書き方を教えているようで、純文学となるとかなり事情が異なるんだろうなと思ったりした。 よ…

佐伯一麦と内田百閒

『別冊太陽 内田百閒 イヤダカラ、イヤダの流儀』(平凡社、2008年)は内田百閒について特別編集した豪華な一冊で、さまざまな人の随筆が載っている中で佐伯一麦の寄稿もある。 「百閒の月」というタイトルで、百閒の「東京焼盡」に出てくる月齢の記述から百…

孔雀石の小箱

『バルザック全集21』(東京創元社、1975年)の月報第二十一巻の冒頭に、バルザックが1847年にハンスカ夫人に贈った「孔雀石の小箱」のことが絵入りで紹介されている。 表蓋にHeva Lididda(貴重なエヴァ)とヘブライ語の象嵌がある バルザックは夫人からの…

「とりあえず蟹座」

以前、佐伯一麦の短篇「二十六夜待ち」の成立事情についてこのブログで書いた。 『麦の日記帖』(プレスアート、2018年)にもこの短篇について触れている箇所があった。 『麦の日記帖』は、「Kappo 仙台闊歩』連載の佐伯のエッセイ「杜の日記帖 闊歩する日々…

過去の新聞

先日、大江健三郎『人生の親戚』(新潮文庫、1994年)に出てくる数寄屋橋公園のハンガー・ストライキについて調べるため、1975年の朝日新聞を見たのだが、当時の世の中は、それなりに熱くてすごかったんだなぁと改めて思った。 ハンストの原因となった金芝河…

『人生の親戚』のハンガー・ストライキ

大江健三郎『人生の親戚』(新潮文庫、1994年)は、冒頭に語り手の作家が数寄屋橋公園のハンガー・ストライキに参加したエピソードが出てきて、そこでヒロインの倉木まり恵の働きぶりも描写される。 私はこの数寄屋橋公園でのハンストのことが気になったので…

ニュース砂漠

こないだのNHKクローズアップ現代は、苦境に立たされている地方新聞の奮闘を取り上げていて、考えさせられた。 地方新聞が廃刊になってしまった地域は「ニュース砂漠」となり、住民同士が地元の話題を共有する機会がなくなって、それゆえか、投票率が低下し…