『バルザック全集21』(東京創元社、1975年)の月報第二十一巻の冒頭に、バルザックが1847年にハンスカ夫人に贈った「孔雀石の小箱」のことが絵入りで紹介されている。
表蓋にHeva Lididda(貴重なエヴァ)とヘブライ語の象嵌がある バルザックは夫人からの手紙をこれに入れていたが、『従妹ベット』でユロ元帥がこれを使っている
上記によると、これは元はバルザックが夫人からの手紙を入れていた愛用の小箱で、のちに象嵌を施して夫人に贈った、ということになる。
とまれ、上記を読み、俄かに興味が湧いたので、岩波文庫の『従妹ベット』(水野亮訳、1950年)を紐解いてみた。すると、下巻の31章にその箇所を見つけた。
書齋へ戻つた老元帥は、弟をそのまますつぽかしておいて、机のなかに隠しておいた鍵をとり出すと、鋼鐵に孔雀石を被せた寶石箱をあけた。それはアレクサンドル皇帝からの贈り物だつた。
とある。自分の愛用の貴重な品を小説に登場させる気持ちは、生意気ながらちょっと分かる気が。貴重品ではないが、煙草を吸っていた頃はよく愛喫の銘柄を書いたし、愛機の自転車なども登場させたことがある。