杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

「川が流れるように」

『ことばを写す 鬼海弘雄対話集』(平凡社、2019年)は、写真家・鬼海弘雄が「アサヒカメラ」で行った対談をまとめたもの。相手は、山田太一荒木経惟平田俊子道尾秀介田口ランディ青木茂堀江敏幸池澤夏樹。編集はノンフィクション作家の山岡淳一郎である。

山田太一との対談は「大半の人生は『受け身』だと思うんです」で、二人がそれぞれ作品づくりの姿勢や人生観めいたものを、自分の来歴や作品にからめて語り合っている。

私が知る限り、恐らく鬼海と山田の対談はこれが初めてではないが、この本を読む限り、初対談なのかそうでないのかを二人の言葉から察するのはできない。

さて本書の対談、なんともはや抽象的なのだが、人生のベテラン二人が語っていることもあってか、やっぱり味わいがあるなぁと思った次第。山田は大学を出て松竹大船撮影所に入ったが、元々は教師を志望していた。しかし、教員免許を取ってもコネがないと就職できないと言われ、仕方なくあちこち受けた中に松竹大船があった。吉田喜重篠田正浩の助監督についたが、後年、木下惠介がテレビで短篇を撮るので助手になる。年間50本以上のドラマ枠をこなさなくてはならないということで、自分も脚本を書くことになり、そのまま脚本家になったという。それに対し、鬼海が「人生のすごろくというか、あみだくじっていうのは、どこでどうなるかわからないですね」と言う。山田は、誰も自分に自信をもって人生を切り開かなきゃいけないというけど、違う、大半の人生は「受け身」だと思う、と言う。

この下りがこの対談のタイトルになっているわけだが、こういう辺り、そうだよなぁと思う。私も、何が何でも物書きになろうとして現実の中であがきまくってきた自覚があるが、どんなに鯱張ってもうまくいかない時はいかない。だから最近はむしろ、まぁとにかく転がった先で精一杯やって、後は流れるに任せる方が賢いんじゃないかという気がしてきている。

鬼海が上記の下りの中で、こんな風に言う。

うまくいく確率なんて宝くじに当たるようなもので、もっと川が流れるようにやりたいことに近づくというか、見ている夢を大事にしたほうがいい……。