大江健三郎『人生の親戚』(新潮文庫、1994年)は、冒頭に語り手の作家が数寄屋橋公園のハンガー・ストライキに参加したエピソードが出てきて、そこでヒロインの倉木まり恵の働きぶりも描写される。
私はこの数寄屋橋公園でのハンストのことが気になったので、ネットで調べてみたら、1975年5月17日に実施されたという情報が出ていた。
しかし『人生の親戚』にもネット記事にもそれ以上の詳しい情報は載っていなかったので、当日の朝日新聞を調べた。すると、5月18日の朝刊に「33人がハンスト入り 金芝河氏の公判ひかえ」という見出しの記事が見つかった。
写真も入っているが小さな記事で、文字数は500字くらいか。反共法違反容疑で拘束され、19日にソウルで初公判を迎える韓国の民族詩人・金芝河(キム・ジハ)が、死刑は免れないのではないか、と言われている事態に対する抵抗としてのハンスト(17日午後から48時間)を開始した様子を伝えている。
参加したのは日本の作家、評論家、在日朝鮮人作家グループ、在日韓国人の民主化運動家、アメリカの平和運動家などで、もちろん大江も参加した。他には井出孫六、中村武志、針生一郎、鶴見俊輔、日高六郎、富山妙子、金達寿、鄭敬謨、ニコラ・ガイガなどもいて、男27人、女6人である。大江がハンストに先立って宣言を行った。
当日は土曜日で時間は午後。数寄屋橋は若いアベックなどで混雑していたようで、通行人はハンストそのものより有名人を珍しそうに見物していたと、記事は伝えている。