杉本純のブログ

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映画『二十六夜待ち』を観た。

映画『二十六夜待ち』(2017年)を観た。主演は井浦新黒川芽以、脚本・監督は越川道夫である。

原作は佐伯一麦の同名小説で、これは佐伯の作品の中でも指折りの良作だと思っている。その映画化というので楽しみにして観た。

映画は2時間以上あり、小説が無駄な部分をよく削ぎ落した短篇であるだけに、これだけ尺があるとやはりやや冗長な感じがした。井浦新黒川芽以の濃密なセックスシーンがたくさん出てくるが、原作はそんなにセックスばかり描いているわけではない。映画のセックスシーンは官能的というのではなく、どこか痛々しさを感じさせるもので、とはいえそれは原作の雰囲気に近いものがあったと思う。

原作に出てくる「とりあえず蟹座」が映画には出てこないが、それは原作がもともと「群像」の特集で、星座をテーマにした短篇集の一つだったことに関係するので、わざわざ映画で再現する必要はない。

小説は、文章に書かれていない部分を読者が想像で補う、ということがあると思う。一方で、映画はセックスも男の表情も女の喘ぎ声もぜんぶカメラとマイクが捉えてしまう、ということがあり、そこが大きな違いになるのではないか。映画『二十六夜待ち』を観て、例えば男と女が最初にセックスするところなど、原作は余計な描写が一切ないが映画では何もかも描かれている。ここで、映画と原作の味わいがかなり変わってしまったように感じた。

逆に、小説では字の文で説明されていたことが映画ではナレーションが入らないので説明されない、ということもある。最初にセックスする夜は東北六魂祭なのだが、映画では直接は言及されない。しかしこれは、どちらでも良かったように思う。

主人公・杉谷はいちおう43歳という設定である。井浦新はそれにしては若いなと思ったが、映画公開の年に43歳だから撮影時はそれよりちょっとだけ若い歳だったことになる。