杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

「足るを知る」

基本を着実にこなす

先日から読んでいる築山節『脳から変えるダメな自分』(NHK出版、2009年)。このブログで、「ネガティブ思考に陥りやすい」の章に書かれていたことを先日記事にしましたが、同じ章の中にもう一つ、大いに頷いた箇所がありました。

「『着実に処理できていることがある』という充足感」という見出しです。著者である築山先生自身、うまくいかないことが続いて思い悩み、投げやりになってしまうことがあるが、そういう時は、少しの時間で確実に終わる仕事や、それすらない時は資料の整理などをして、上手くいかないこともあるけど着実に処理できていることがあり、それだけ前進している、と思うことにしているのだそうです。

あぁ、これなら俺も似たような体験があったぞ、と私は思いました。詳しくは書きませんが、なかなか物事が思い描いた通りにならなくてイライラしている時、待てよ…でもあの頃に比べたら今はずいぶんよくなっている、前進しているじゃないか、だからこのまま少しずつ行けば間違いない、と考えて落ち着きを取り戻したことがありました。

この「着実に前進している」という事実認識は、幻想に振り回されて見失いがちな自分を取り戻す力があるように思います。というのは、恐らく人間は思い通りにいかないことが続いてストレスが溜まると、現状を丸ごとひっくり返すような空想に陥るのではないか。つまり、仕事があまりに忙しい時、もう仕事なんて辞めて自由に暮らしたい、と思う。あるいは、お金がなくて買える物が少ない状態が続くと、何でも好きに買える大金持ちになりたいと思う、などです。

そういう空想は、いっときは気分と意欲を高めてくれますが、平たく言えば地上から見上げるエベレストの頂のようなものではないか、と私は考えます。あそこまで行けたらさぞいい気分だろうな、と思わせてくれるからです。しかし、いっときの意欲と努力だけで頂上に到達できる人は稀であり、そこには運も大きく関与するでしょう。そういう稀少な成功例がまた、成功していない人を陶酔させるのは、一攫千金の話に人が群がることなどから明らかだと思います。そういう類いの、人を陶酔させる空想は、要するに幻想なのでしょう。

幻想に振り回されると時間と体力、下手をするとお金さえ失いますが、基本的なことを確実にこなし、着実に前進していると認識できれば、現実をきちんと直視し、自己肯定感を得ることもできるはずです。

それは「足るを知る」ということでもあると思います。