杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

和田芳恵と佐伯一麦2

佐伯一麦の『蜘蛛の巣アンテナ』(講談社、1998年)の「土産の塩煎餅」を読んだ。これは「河北新報」に1995年3月30日に載った随筆だが、去る彼岸の日に茨城県の古河に行き和田芳恵の墓を訪ねたことが書かれている。渡良瀬遊水地の野焼きを見るのがもう一つの目的だったが、前夜に雨が降ったために中止になったらしい。

どうやらこの日に佐伯は和田の妻である静子に会ったようだ。野焼きが見られなかったにも関わらず「旅のもう一つの目的は、存分に叶った」と冒頭に書いているので、墓参りに加え静子と和田について話すのが目的だったのではないか。

佐伯は帰り際に未亡人から塩煎餅をもらったようで、それは和田の好物だったらしい。ところが、その未亡人とのやり取りのくだりを読み進めると、どこか読んだ覚えがあるものだった。ひょっとして、と思い、和田の『暗い流れ』(講談社文芸文庫、2000年)の佐伯による解説「私小説という概念」を読んでみると、未亡人とのやり取りはほとんど丸ごと再録したかのように酷似していた。

佐伯は一つのネタで二つ以上の書き物をすることが少なくないが、これなどはその一つと言えよう。