杉本純のブログ

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アウトプットはごくわずか

取材原稿を書く場合、私はよほど長いものでなければだいたい取材当日か翌日には書き上げ、どれだけ立て込んでも一週間以内には必ず仕上げるようにしている。人からは早いですねと言われるが、新聞記者などからすると常識なんだろうなと思う。

それについて先日、どうやったらそれだけ早く書けるのかと、あるライターに聞かれた。私は「聞いたことをまとめただけですよ」と答えたが、それは偽らざるところであり、それ以上のことはしていない。

しかし、仮に取材原稿を早く仕上げる秘訣があるとすれば、取材対象の印象と記憶が鮮明な内、取材直後などに書き上げてしまうことではないだろうか。しかし、それは別の仕事が割り込んでくるなどして往々にして阻まれる。だからとにかく、どうにかして時間を作り、早々に書き上げてしまうのである。

それはさながら、魚や肉を料理する際、鮮度が失われない内にやってしまうのに似ているように思う。取材後しばらく放っておいて、後日ゆっくり取り掛かるのは、だから肉を冷凍保存しておくのに似ている。カチカチに凍っているから調理するまでにまず解凍しなくてはならず、原稿もそれと同じで、内容を思い出すまでにメモを読んだり、音声を聞き直したりと、わりと時間がかかるのだ。だから特殊な事情がない限りすぐに執筆に入るのが望ましいと思う。

そんな風に書くと、スピードを重視するために原稿の品質が落ちてしまうのではないか、といった意見が出てきそうだが、私の経験から言うと、時間をかければ良い原稿が書けるなどということはない。むしろ、ガンガン書き進めている過程で脳が活性化され、強い言葉や言い回しが浮かんでくることの方が多い。

取材記事を仕上げるプロセスは大きく三つのステップになると思う。準備、取材、執筆である。この内、準備と取材がインプットで、執筆がアウトプットになる。

原稿を仕上げるのが早いといっても、私の場合はけっこう準備に時間を使うので、決してトータルの時間が短いわけではない。取材は、まあ40分から60分くらい。そして執筆は、メモが不完全な状態なら音声を聞き直して完全にし、記事の流れを頭に入れる。厳密にはここまでがインプット。アウトプットとなる執筆は、1000字でも2000字でも、ひたすらキーボードを打つだけなので、あまり時間はかからない。書き上げた後の見直し、推敲もそんなに時間は取られないので、執筆時間は本当に少ない。

執筆に多くの時間がかかってしまうとしたら、それは準備、取材、メモ、流れを頭に入れる、などのインプットの過程のどこかが不足したままアウトプットに突入してしまったからだろうと思う。それは私も往々にして経験することで、上手く文章を書き継げない時、冷静になって振り返ってみると、取材であそこをもっと聞いておけば良かった、もっときちんと固めてから書き始めれば良かった、などと思うことがよくある。

アウトプットが占めるウエートはごくわずかだと思う。