杉本純のブログ

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ひとり出版

原点回帰

宮後優子『ひとり出版入門』(よはく舎、2022年)を読みました。

内容は、タイトルの通り一人で出版事業を始め、継続していくことを目指している人に向けた入門的なノウハウを伝えるもの。著者は個人出版社・ギャラリー「Book&Design」を営む編集者(元出版社勤務)で、現在の出版業界についていろいろ思っているはずですが、それはさほど表には出さず、出版事業の始め方を中心に端的に紹介しています。

私自身、一人で出版社をやってみたい気持ちがあったので、本書を手に取りました。今はそういう気持ちはありませんが、それは本書を読む前からそうだったわけですけれども、読んだ結果よりその気持ちが強くなった、という感じです。とはいえ、出版事業と業界の仕組みについてよく分かった気がしますし、出版社と編集者が抱える事情も理解できたように思えました。私は著者を目指していますが、その点でも勉強になった気がします。

本書の最後の方は、著者が「ひとり出版」の同業者に対し行ったアンケート調査の結果が掲載されています。アンケート対象は8社ですが、1社を除いて全員が「ひとり出版」以外の仕事をしているとのことでした。やはり現実には出版専業はなかなか難しいのだなと感じたと同時に、それは何だか今っぽい気もしたし、副業・複業が出版の仕事に相乗効果を成すことも少なくないだろう、と思った次第。

全体に得るところが多かったですが、特にアンケートのまとめに該当するところに「出版の原点回帰」と書いてある箇所が強く印象に残りました。

 最近では、出版のほかに、書店を経営する出版社も増えてきています。売場を持つことで、お客様の反応や本の売れ筋などを直に感じられるのが書店経営のメリットでもあります。また、書店を開くことで、地域と交流したり、出版社のメッセージをダイレクトに伝えたりすることも可能です。古くは出版社が書店も経営していたので、出版社が書店を営むことは出版の原点回帰とも言えます。

書店を営む出版社というと、まず岩波書店が思い浮かびますが、あれはたしか古書店から出発して出版事業にも進出した、という順番だったか。まぁ他にもいろいろあるでしょう。

作家が書店を経営する話もちらほら聞きますし、本を「作る」と「売る」は元より親和性が高いのでしょう。