杉本純のブログ

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佐伯一麦と古井由吉

二人の縁の始まり

『新潮』3月号は「アンケート特集 古井由吉の文 三回忌に寄せて」という特集が組まれています。古井の著作の中から文章を選び、それに関わる思いを述べるもので、寄稿者は石井遊佳、岸政彦、佐伯一麦鈴木涼美、諏訪敦、諏訪哲史、滝澤紀久子、田中慎弥谷崎由依中村文則蓮實重彦平野啓一郎日和聡子、古井睿子、堀江敏幸又吉直樹町田康松浦寿輝村田喜代子

雑誌で三回忌のこういう特集が組まれるんだから、古井という人はすごい作家なんだなと思いました。

佐伯一麦は『陽気な夜まわり』(1994年)の「われわれは、局地局地につっこまれた兵隊ですから」という一文を選び、古井の同世代の者たちへの姿勢を述べつつ、古井は自分がアスベスト禍に遭ったことにも関心を持ち、それが所縁の始まりだったとも言える、と書いています。

古井と佐伯は幾度も対談し、新聞紙上での往復書簡もあるくらいの仲です。その縁の始まりは、厳密には佐伯が「木を接ぐ」で「海燕」新人文学賞を受賞したことでしょう。

古井は新人賞の選考委員でした。古井は「海燕」新人賞の授賞式後、酒場をハシゴする中、「木を接ぐ」について「ああいう小説は、好きなんです」と佐伯に語っています。