杉本純のブログ

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小説家と銀行員

先日、鹿島茂『パリの王様たち』(文春文庫、1998年)を読み返す機会があって、こんな箇所に目が留まった。

小説家は銀行員のように仕事しなければならないといったのは三島由紀夫だが、バルザックは、この時期に、たんに文筆で金を稼ぐということだけではなく、一日の一定時間、かならず机の前に自分を縛りつけ、なにはともあれ、紙の上に筆を走らせるというプロの作家のプラティックを、それこそ「体で覚えて」しまったのである。

哲学小説『ステニー』に取り組んだ時のバルザックのエピソードだが、この三島由紀夫の発言、聞いたことがあるような、ないような、といった感じだった。

試しに三島の『小説読本』(中央公論新社、2010年)をぱらぱら読み返してみたが、見当たらなかった。

ただ三島は同じようなことを別のところでも言っており、一般の人々が思い描くような小説家の優雅な生活などというものはない、と考えていたのは間違いない。その点は、鹿島茂も『パリの王様たち』で言っている。謹厳実直な実務肌の人こそ、小説家にふさわしいのだろう。