杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

妄想と方向性

草薙龍瞬『これも修行のうち 実践!あらゆる悩みに「反応しない」生活』(KADOKAWA、2016年)を読んだ。これは、毎日を楽しく快適に過ごすために、日常生活や仕事の様々なストレスや悩みを受け流せるようアドバイスする本。日頃の悩みを増やさないポイントは「ムダな反応しない」ことであり、それを実践するための心掛けや習慣をたくさん紹介している。

著者は僧侶であり、本書は仏陀の教えを基礎にしているらしい。もっとも、自己啓発書寄りにまとめられていて、宗教色は感じない。ちなみに、この著者には別に『反応しない練習』(KADOKAWA、2015年)という本があり、そちらの方が話題になっているようだ。

さて本書をざっと読んで、自分の精神を健全に保つ上では、対人関係における距離の持ち方、物事の受け止め方がすごく重要だな、と分かる。悩みを消すことは難しいだろうが、悩みに立ち向かうことはできる、と思った。

中で大きく頷いたのは、「妄想と方向性は違うと知る」という見出しの後に続く文章である。「方向性」は、辿り着きたい将来の自分(仕事、家族との在り方、心の状態)だと述べ、その後でこう続く。

〇妄想は、ただ妄想しているだけで行動しない。しかも、疑いや不安や後悔など暗い妄想もある(執着が強い人間は、暗い妄想の方が得意)。
〇方向性は、最初に考えるだけで、直ちに行動に移す。あとは、たどり着くための方法(具体的な作業)に専念する。

 だから、「妄想と方向性の違いはどこにあるの?」と思ったら、「行動しないのが妄想で、行動に移すのが方向性」と理解して間違いではありません。
 これは、山登りにたとえるとわかりやすいでしょう。「山の頂上をめざす」と決めて、登り始めるなら、その頂上は“方向性”に当たります。でも登らないままなら、まだ“妄想”の段階ですね。

著者は、方向性は正しくなければならないとし、「正しさ」とは「苦しみがない」ことと言う。また不安や忌まわしい記憶を心に持たないことを述べ、上記の通り「暗い妄想」には批判的のようだ。

私は文学をやる人間だし、「執着」や「暗い妄想」とはむしろ縁が深いような気がする。しかし少なくとも、妄想ばかりして行動に移さないのが人生の時間の無駄であることは、よく分かる。