杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

川と人間の世界

佐伯一麦は「川の子」と自認している。海の子、山の子、という言い方に倣った自己認識なのだが、実際に広瀬川神田川妙正寺川多摩川利根川渡良瀬川、といった川の近くに住んでいる。

もっとも、考えてみると文明というのは古来より川に沿って形成されていくもので、人間はだいたい川の近くに住むのである。ちなみに私は矢戸川、多摩川、荒川などの近くに住んだことがあり、ある意味では「川の子」と言えるかも知れない。

近年は水害が恐ろしいので川の近くに住むのは考えものでもあるが、晴天の日に大きな川の土手を歩くと気持ちがいい。また先にも書いたように、川の周囲には文明が築かれ、さまざまな産業が営まれるのは歴史が示す通りである。私は近所にある川を舞台にした産業や文化には興味があり、ライフワーク的にちょくちょく調べている。

佐伯一麦には『川筋物語』があり、深沢七郎には『笛吹川』がある。『千曲川のスケッチ』『橋のない川』『四万十川』『長良川』『蛍川』などなど、たくさんある。花井泰子という人の『新河岸川の八助』という本もある。美しいことばかりではなく醜いことや惨いことも多い。それが人間の世界なのだと思う。