杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

「重力問題」

ビル・バーネット&デイヴ・エヴァンス『LIFE DESIGN スタンフォード式 最高の人生設計』(千葉敏生訳、早川書房、2017年)は、言うなれば人生設計(ライフデザイン)の指南書で、自分の人生を進捗させ、充実させるためにどうすればいいか、といったことが書かれている。興味を持った別のある本の関連書として知り、今回手に取った。

その前半の方で、自分の人生の「現在地」を知り、進捗を阻んでいる問題は何かを認識することについて書かれている箇所があるのだが、そこに「重力問題」という言葉があった。

自分を取り巻く環境からくる諸問題のうち、自分の力ではとうてい解決できそうにない問題は、地球の重力のようなものだ、というわけだ。重力には逆らいようがなく受け入れるしかないのと同様、解決しようとすることの方が愚かで、受け入れるしかない問題がある、と書いている。ただし、キング牧師が闘った黒人差別のような、極めて難度の高い問題でも解決しようとする選択肢があることを否定してはいない。

色んな「重力問題」の例が出されているが、中で「詩人の収入」というのがあって面白かった。日本でもそうだろうが、アメリカでも詩人をやって食べていくのは困難らしい。

 詩人の平均所得を高めるには、どうにかして詩のマーケットを変革し、みんなにもっとたくさん――またはもっと高い単価で――詩を買ってもらうしかないだろう。まあ、やりようがないわけではない。詩のすばらしさを訴える投書を出す。家々を訪問し、近所のカフェで開かれる詩の朗読会に参加するようお願いする。
 だが、途方もない時間がかかる。重力と比べればこの“問題”に対処する余地はあるが、対処不可能な状況として受け入れてしまったほうがいいだろう。そうすれば、別の問題の解決策を考える方向へと目を向けられるからだ。

詩のみならず純文学もそうなんだろうな、と思う。エンタメ小説なら解決のレベルはぐっと下がると思うが、純文学では極めて困難だろう。

引用の最後の一文は、何気ないが重要だと思う。そう。重力問題に汲々として何も進捗しないのは時間の無駄だし苦痛でしかなく、そのエネルギーを他に振り向けることができれば、状況は大きく変えられると思うのだ。