杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

充実させなきゃ症候群

先日このブログでわたなべぽん『やめてみた。』(幻冬舎、2016年)について書いたが、アマゾンレビューを見るとけっこう低評価が目立っていた。本書のポイントは、そもそもやる必要はないけど何かしらの思い込みがあって続けてしまっていたことをやめてみたら楽になった、ということだと思うので、やりたくてやっていて充実しているならやめる必要はない。本書を読んだ後、何をやめる・続けるを決めるのは当然ながら読者本人次第で、読んで気づきがあればそれでいいと思う。

本書の最後は「充実させなきゃ」という話で、人間関係の中で妙な見栄が働いて忙しいフリをしたり、教室に参加してスケジュールを埋めたりするが、やがて疲れる。それで、それもやがてやめる。

この「充実させなきゃ症候群」とでも言うべきものは、ちょっと分かる気がする。経験から言うと、これはきっと、現状の仕事や生活に満足できていない人が陥る症状である。現状に満足できていないからこそ、何かでその不足を補おうとする心理ではないか。しかしその「何か」が、自身の本当にやりたいことではなかったりするので、結局は満足には至らず、やがて疲れてしまう。

調べ物や書き物は長い時間を要することが少なくないので、やり遂げたら大きな喜びがあるのだろうが、それまではこつこつ地味にやり続けるしかない。その期間は、未だ満たされないのを別の何かで埋めようとすることがしばしばあると思う。それが過剰になってくると「充実させなきゃ症候群」が現れるのではないだろうか。