杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

小説家は状態

ワナビという市場

鈴木輝一郎『何がなんでも長編小説が書きたい!』(河出書房新社、2021年)は、小説家志望者に向けて長篇小説執筆を指南する本です。どうして長篇なのかというと、それが書けないと小説家としての「経営」が成り立たないからで、ただの趣味として小説を書いていこうと考えている人向けではありません。「小説家として食べていきたい」と具体的に考えている人、要するにかなりガチのワナビに向けた内容になっています。

鈴木先生は現役の小説家で、小説講座の講師でもあります。ワナビ向けの本はすでに複数出しています。角川文庫の大沢在昌『売れる作家の全技術』が出たのが2019年で、鈴木先生の『何がなんでもミステリー作家になりたい!』(河出書房新社)と同年です。河出からはそれ以前にも鈴木先生ワナビ向け本が複数出ており、以降も出ています。ワナビ向け小説指南は、立派な一つのマーケットと言えると思います。

趣味小説家には向かない内容

本書を読んでいて、我が意を得たり、と思う箇所がありました。

 小説家とは職業ではなく、状態です。小説家とは「小説を書き続けている人」です。

以前もこのブログで、「本の雑誌」に連載された鈴木先生の「生き残れ!燃える作家年代記」から「作家とは、職業ではなく状態なんでござる。」という言葉を引用しました。

それなら趣味で好きな小説を書き続けている人は立派な小説家になります。鈴木先生の著作を私はぜんぶ読んでいませんが、先生はきっと、そういう趣味小説家を小説家ではないとは言わないでしょう。けれども本書はワナビ向けの本であり、書こうとしていても書けない人に対し率直かつ手厳しい言葉が連ねられています(それは優しさでもあると思いますが)。趣味で気ままにやっていこう、という人には向かない本ですね。