杉本純のブログ

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舟橋聖一「華燭」

佐伯一麦『からっぽを充たす』(日本経済新聞出版社、2009年)の「消え落ちた華燭」には、舟橋聖一「華燭」のことが紹介されている。

「華燭」は、結婚式披露宴のスピーチで新郎の友人として祝辞を述べる主人公が、新郎と新婦と自分の三角関係について暴露し、披露宴を台無しにしてしまう話だが、全篇が主人公のスピーチになっていて、地の文に当たる箇所はカッコの中に記される形になっている。

私は今回、「消え落ちた華燭」に刺激されて読んだ。読んで、荒唐無稽だけれども語り口が巧みですらすら読み進められて楽しかった。小説というのはこういう風に、別に深いテーマを扱って深刻ぶることなく、いっときの娯楽あるいは知的な刺激を与えてくれる読み物として楽しむものでいいんだ、と改めて思った次第。エンタメ小説を読む人の大半はそういう態度で小説に臨んでいるはずだが、私はどこか、小説に対し、読む意義のある、高尚なものを求める意識がどこかにあったんだと思う。

「消え落ちた華燭」には、佐伯が参席したパーティで三十分以上も長広舌を振るった人がいて、その状況に対し佐伯は、ああこれは「華燭」の世界だ、と思い当って「微苦笑」を浮かべた、とある。何のパーティだったのだろう。。