杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

佐伯一麦「雛の棲家」

佐伯一麦「雛の棲家」を読んでいるのだが、いい。これは佐伯が27歳の頃の作品だが、佐伯の小説はやはり二十代から三十代にかけてのものが好きだ。どうしてかというと、仕事と生活、人間関係が苛酷な時期に書かれた私小説だからだろう。

「雛の棲家」は、「宮城県内随一」の高校に通いながらもすでに大学進学の道を捨てている主人公の鮮(あきら)が、思いを寄せる女とその子供のために部屋を借り、仕事を始める話である。女とは愛し合う仲だったがセックスするまではいっておらず、子供の父親は誰だか分からない。『ア・ルース・ボーイ』や、高校時代を描いた作品の設定と重なる。中でも「静かな熱」は、この「雛の棲家」の前日談のような話を描いていると言える。

佐伯の私小説をつなげて主人公の年表を作ってみるのも面白そうである。佐伯の実人生とどれくらい重なるだろうか。