杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

佐伯一麦と島田雅彦の共通点

もともと佐伯一麦関連の本として手に取った島田雅彦『君が異端だった頃』(集英社、2019年)だが、読み進めていくうち、年齢が近い佐伯と島田には色んな共通点があることに気づいた。

まず二人ともクラシックが好きである。『君が異端だった頃』にはブルックナーとかマーラーとかクラシック関連の名詞がばんばん出てくる。佐伯もまたクラシックをよく聴き、『読むクラシック』(集英社新書、2001年)という本を出しているほどだ。

次に、二人とも高校時代に埴谷雄高『死靈』を読んでいる。そして、埴谷と『死靈』に少なからず影響を受けている点でも共通する。島田はしばらくの間「首猛彦」を自らのペンネームの参考にし、佐伯は文芸部で出した同人誌を埴谷宅に届けた、という情報がある。

そして、佐伯も島田も十代で新聞配達のアルバイトをやっている。それは二人とも、それぞれ自分の私小説に書いているし、佐伯は随筆にも自分が元新聞少年であることを書いている。

二人は川崎市多摩区の稲田堤に住んだことがある。島田はそもそもそこが実家だった時期があったのだが、二人は一時期、地元の友達としてもよく飲みに行ったり、多摩川べりで遊んだりしている。

また二人は「海燕」でデビューした点も共通しているし、なぜ「海燕」だったかというと寺田博が編集長をしていたから、という点でも共通している。ではどうして寺田を当てにしたかというと、これは二人の私小説に書かれているのだが、佐伯は和田芳恵『暗い流れ』の担当編集者として寺田を敬っていたからで、島田は野田開作のアドバイスに従って寺田に辿り着いたからだ。島田本人は寺田を目当てにしていたわけではない。このことは島田の随筆「ハッタリと『悲愴』」(「新刊ニュース」編集部『本屋でぼくの本を見た』(1996年)所収)にも書かれている。

二人は三十年以上にわたり親交のある作家仲間だが、『君が異端だった頃』を読みながらざっと数えただけでこれだけの共通点があるのに驚かされる。細かく探せば、もっと見つかるかも知れない。

小説への取り組み方は一八〇度違うように思う。政治に対する態度は、まるで違うようにも思うし、似ているように見える部分がなくもない。ここら辺は、もっと細かく調べたいところ。