杉本純のブログ

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ふさぎ虫

島田雅彦『君が異端だった頃』(集英社、2019年)は島田の自伝小説である。私は佐伯一麦への興味から、佐伯の友人の島田の自伝小説とあれば必ずや佐伯のことが出てくると思い、買って読んでいる。

帯には「最後の文士・島田雅彦による自伝的青春私小説!」と書いてあり、私は島田に限らず私小説なら進んで読みたいと考えているし、佐伯の私小説と読み比べてみる面白さもある。しかし、「最後の文士」などとあるのが、なんだかおかしい。

さて小説は島田らしくテンポがいい。第一部は「縄文時代」で、冒頭は「ふさぎ虫」という小タイトルが付いている。「ふさぎ虫」については、

捌け口のない苛立ち、模糊とした不安、慢性的な倦怠がはびこってきたら、確実にその虫に寄生されている。もともと実在しない虫なので、駆除のしようもなく、うまく折り合いをつけるしかなかった。

とあり、恐らく「塞ぎの虫」のことだろう。この小説の主人公「君」は、小学四年生の頃に「ふさぎ虫」と相性が良くなった、とある。

私が「ふさぎ虫」との相性が良くなったのは、恐らく高校を出て大学に入った頃か。芸大受験に挫折したのがきっかけだったが、「ふさぎ虫」にとってワナビの精神はよほど居心地がいい場所なのだろう、未だに私は「ふさぎ虫」を駆除できないでいる。