佐伯一麦『ショート・サーキット』(講談社文芸文庫、2005年)の二瓶浩明による佐伯年譜には、1985年のところに若手作家の集まり「奴会」について書かれている。
「奴会」については、山田詠美の『ひざまずいて足をお舐め』(新潮文庫、1991年)の解説で佐伯がその思い出を書いている。「奴会」と具体名で言及されてはいないが、内容からしてまず間違いない。若手作家の他に、詩人や批評家、編集者なども集まり、箱根の温泉に一泊の旅行をしたそうだ。
さらに最近、島田雅彦の『君が異端だった頃』(集英社、2019年)を読み、中に「奴会」について言及されている箇所があったので驚いた。
その頃、君は二十代の小説家、劇作家、詩人、批評家らと「奴会(やつかい)」という仲良しグループを結成し、不定期で読書会や勉強会を行い、会がはねると、夜遊びにかまけていた。詠美にもそのメンバーに加わってもらうことにした。
川村毅や小林恭二も交え、新宿で朝まで飲んだり、箱根に一泊旅行に出かけ、混浴したり、中学生みたいにじゃれ合いを重ねるうち、(後略)
佐伯の名前はないが、佐伯が『ひざまずいて足をお舐め』の解説で書いていた箱根旅行の記述とほぼ重なるのでやはり間違いないと思う。しかし奴会は「やつかい」なのか「やっかい」なのか、どちらだろう。
『君が異端だった頃』を読むと、当時の作家たちが世代を超えてひんぱんに交わりを持ち、よく遊んでいたことが分かる。山田詠美は島田と島田の両親が暮らすマンションに行ったこともあったようだ。
私は佐伯を中心に1980、90年代の交友関係やエピソードをぽつぽつ見ているが、どうも(当時の?)文壇というのは狭い世界だったんだな、と思えてくる。