杉本純のブログ

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佐伯一麦の書斎

大倉舜二『作家のインデックス』(集英社、1998年)は、大倉が作家と書斎や持ち物などを撮影した写真集で、「すばる」で1990年から1995年まで連載した巻頭企画を一冊にまとめたものである。瀬戸内寂聴中上健次三木卓宇野千代島田雅彦古井由吉など作家56人がその書斎とともに登場している。

その中に佐伯一麦がいる。撮影されたのは1994年10月で、書斎は広瀬川のほとりの四畳半のアパートである。当時35歳の佐伯は髭も髪の毛も黒い。この頃、佐伯はすでに長篇『渡良瀬』を「海燕」にて連載していたが、その資料として撮影したという写真が壁の棚に貼られている。二瓶浩明による佐伯年譜によると、1994年3月8日に「渡良瀬遊水池の野焼きを見に行く。」(正しくは「渡良瀬遊水地」)とあるのだが、写真の日付は3月20日になっている。

佐伯は同年2月より神田美穂と同居し、後に結婚するのだが、同居の場所は同年の春から棲んだ北蔵王山麓の古家なので、このアパートではない。このアパートでの撮影は1994年10月に行われたのだから、アパートに住みつつ古家で同居もしていたのだろうか。『作家のインデックス』には、その辺の事情を伝える記述はない。

佐伯は『からっぽを充たす』(日本経済新聞出版社、2009年)の「壁に向かって紡ぎ出す」で本書に触れており、同書に出ている作家の中では古井由吉の書斎を最も興味深く眺めたと書いている。古井の書斎は馬事公苑のそばのマンションで、1994年11月に撮影された。こちらは広い部屋である。