杉本純のブログ

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佐伯一麦と映画

山田詠美の対談集『メン アット ワーク』(幻冬舎文庫、2001年)の佐伯一麦との対談「シンプルで透明なところへ」を読んだ。

この対談集には他に、石原慎太郎伊集院静井上陽水大岡玲大沢在昌奥泉光京極夏彦団鬼六、西木正明、原田宗典水上勉宮本輝村上龍との対談が収録されており、解説は亀谷誠が書いている。

「シンプルで透明なところへ」は、1996年4月12日に行われた対談で、初出は「新潮」1996年6月号。山田の純文学書き下ろし特別作品『アニマル・ロジック』(新潮社、1996年)刊行後に対談したようだ。佐伯はここでは「今日は僕は聞き役に回ろうと思ってやってきました」と言っており、その言葉通り対談内容はほとんど山田と『アニマル・ロジック』を中心に展開している。やや、散漫に語り散らしている印象を私は受けた。

とはいえ佐伯のことが語られていないわけではない。長篇小説『ノルゲ』の構想の断片というか背景らしきものが披露されているし、中篇『一輪』が映画化されたことに山田が触れている。

『一輪』の映画化とは、荒井晴彦脚本の東映Vシネマ『F.ヘルス嬢日記』(1996年)のことで、私は未見。これに対し山田は「私、ショックを受けたのよ。ポスター見たらなんか昔の日活ロマンポルノみたいで、エーッと思った。そこに『団地妻』なんて書いてあってもおかしくないようなものなの。あれどうなの」と落胆を露わにしているが、佐伯は「いや、僕はぜんぜん平気だけど」と言っている。

佐伯 まあ、ATGは好きだったし、日活ロマンポルノだってね。僕はそれで育ってきたところがあるからね。僕は基本的に映画化されてよかったと思ってる。

東映ビデオのホームページらしきサイトで『F.ヘルス嬢日記』を見ると、たしかにエロ映画風の写真で、『一輪』のイメージとはまるで違うが…作品がばんばん映像化されている作家ならいざしらず、佐伯の場合はそういうのは珍しいので、「映画化されて良かった」のではないかと思った。

それにしても、佐伯がATGが好きだったとか、日活ロマンポルノで育ってきたとか、そういう話はまるで聞いたことがない。エッセイなどでどこかに書いていないかな。知りたいな。