杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

Vシネマ『F.ヘルス嬢日記』を観た。

佐伯一麦「一輪」(『一輪』(福武書店(ベネッセ・コーポレーション)、1991年所収)※初出は「海燕」1990年12月号)を原作とする東映Vシネマ『F.ヘルス嬢日記』(1996年)を観た。もうずっと前にDVDを購入していたのだがなかなか落ち着いて観る時間がなかったものの、ようやく観ることができた。

脚本は荒井晴彦、監督は加藤彰。出演は真弓倫子と金山一彦である。DVDパッケージには下着姿の真弓の姿が載っていて、「ルイーズはイ・カ・ス!ヘルス嬢」と書いてある。裏面には劇中のお色気シーンの画像がいくつもあり、「個室の中で女と男は――ア・カ・ラ・サ・マ。」とある。「ルイーズ」とは真弓扮するヘルス嬢の源氏名。私はVシネマってたしか観たことがないのだが、お色気ものの作品であることはパッケージからも明白である。

佐伯一麦は1996年、この作品ができた後に山田詠美と「新潮」(6月号)で対談している。「シンプルで透明なほうへ」というタイトルの対談だが、そこで山田はこの作品に言及している。

『一輪』が映画になったでしょう、荒井晴彦さんの脚本で。私、ショックを受けたのよ。ポスター見たらなんか昔の日活ロマンポルノみたいで、エーッと思った。

などと感想を述べているのだが、当の佐伯は自分はロマンポルノで育ってきたところがあるから、と平然としている。

こんな風に、外見はピンク映画ぽい感じなのだが、中身はけっこう「一輪」に忠実である。仙台生まれ仙台育ちの電気工が、東京生まれ埼玉育ちのファッションヘルス嬢に恋をし、結婚まで考える。しかし、最後はその思いは儚く潰える。原作ではヒロインは「リンリン」という名前で、「ランラン」という仲間がいて、「パンダと一緒かよ」と主人公に言われるが、Vシネマでは仲間が「テルマ」でヒロインが「ルイーズ」になっている。『テルマ&ルイーズ』である。店名は原作が「K」で、こちらでは「ニューヨーク」という名前になっている。この「ニューヨーク」が実際にある店であることは、エンドロールによって分かる。場所は道玄坂で、これはどちらも変わらない。その他、細かい部分でややアレンジが加わっている。

裸も多く出てきてたしかにお色気ものではあるが、原作のような繊細さが皆無というわけではない。金山一彦は、佐伯(というか「一輪」の主人公)のような知的な感じはないが、ヘルス嬢に恋する電気工を好演していたように思う。ルイーズを演じる真弓も、原作より明るい感じがしたが、良かった。

ヒロインが、店の中で流れている歌を聞いて、この歌が好きだという場面があるが、研ナオコの「花火」である。