杉本純のブログ

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佐伯一麦と山田詠美

山田詠美『ひざまずいて足をお舐め』(新潮文庫、1991年)の佐伯一麦による解説を読むと、1985、6年頃、当時二十代だった若手作家や批評家、編集者たちで行った箱根温泉への一泊旅行に二人が参加し、それが初対面だったことが分かる。なお二瓶浩明による佐伯年譜を見ると、1985年に、「島田雅彦小林恭二、川西蘭、中沢けい山田詠美川村毅など若手作家と『奴会』と称した集まりをしばしば持つ」との記述がある。

佐伯は山田の酒の飲み方などをひどく気に入ったようで、「小説を書く“あばずれ”」と呼ばれている山田に対し、「小説を書く“デンセンマン”」などと呼ばれている自分とは同類だという意識を抱いたようだ。

この解説文は、佐伯にしてはかなりくだけた、ざっくばらんな書き方をしていて、そういう一面を見せていることからも、同年の山田に対する佐伯の友情が伝わってくるようだ。

ちなみに佐伯は「だいたいおれは、同世代の人間の小説を余り読まないし、たとえ読んでも、どこか別の世界の話のようで、肌に合わないことがほとんどなのだが、彼女の小説だけは例外だ」と書いているのだが、とすると二歳下の島田雅彦の小説は「別の世界の話」と思っていたことになる。佐伯と島田は佐伯のデビュー時からの仲良しだが、小説についてはそういう風に思っていた可能性はある。

しかしこの解説文、小説の主人公である「ちか」と作者の山田を混同して書いていて、最後は「えっ、なんだって? 解説者なんだから、少しはちかと山田詠美の関係も説き明かしてくれだって? 残念ながら、おれは、そんな七面倒臭いことは知らないよ。作者本人に聞いてくれい!」などと締めくくっている。佐伯は随筆などで時おり不思議な書き方をすることがあり、これなどもその一つと言える。

なお本書が刊行された1991年の夏、佐伯は「ある文学賞」を受けたのを機に誰かと対談するよう持ち掛けられ、一も二もなく山田を指名した、とあるが、『ア・ルース・ボーイ』の三島賞受賞である。対談は「内面のノンフィクション」というタイトルで「海燕」8月号に掲載された。