杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

佐伯一麦と『狂人日記』

色川武大の『狂人日記』(講談社文芸文庫、2004年)の解説は佐伯一麦が執筆している。

佐伯は十八歳の時、神楽坂で色川武大を見たという。大卒と偽って週刊誌のフリーライターをやっていて、その編集者に昼食をご馳走になった後、坂を上ってきた色川に編集者が黙礼をして「阿佐田哲也だ」と囁いた。

さて、佐伯は『狂人日記』が「海燕」に連載されていた1987から88年の時期、「北関東の電機工場で配線工として働いていた」と書いているが、これは古河市の配電盤工場のこと。その時期の佐伯は激務で月150時間以上も残業していて、とても物が書ける状態ではない、辛い時期だった。しかし昼休みの短い時間を使って文芸誌を読む習慣だけは止めなかったようで、中でも『狂人日記』は強い印象を受けた。後に書籍化された年、その一年で読んだ本についてのアンケートを受け、『狂人日記』だけをその年に購入した唯一の本として紹介した。

狂人日記』は1988年10月に福武書店から刊行され、翌1989年に読売文学賞を受賞したので、佐伯がアンケートに答えたのは1988年になる。アンケートとは「海燕」か、それとも別の文藝誌か、新聞か。

ところで色川の持病だったナルコレプシーだが、これにはちょっとした思い出がある。日本映画学校で最初の実習「人間研究」をやった時、別のチームがこのナルコレプシーについて調べていて、たしか色川のことも紹介していた。その時、会場で発表を聞いていた講師の一人がこの病気に疑問を呈し、いきなり眠っちゃうってどういうこと?冷水をぶっかけても寝ちゃうのか?などと言っていた。