杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

「時代の象徴」

神保町の古書店で、「文学の鬼を志望す――八木義德」(北海道立文学館、2009年)を入手した。北海道立文学館の企画展の図録で、紅野敏郎と根本昌夫が監修を担当しており、佐伯一麦の寄稿「昭和という時代の象徴を描く」が載せられている。

その中では、佐伯が三島賞受賞後に八木と対談した時、八木が「自分は自分を描くことによって自分が生きている時代の象徴になり得ると思う」というトーマス・マンの言葉を引き、自分にはマンのようなことはとても言えないが、その言葉は大きな力を持っている、と述べたことが紹介されている。そして、八木の「浮巣」という作品の主人公は、バブル時代の典型的な人物像になっていると述べている。この対談はまだ読んでいないので読まねばと思う。

佐伯の東京や川崎を舞台にした私小説群を読むと、主人公を通してその背景にある社会や時代の様子が窺える。主人公の生活と環境、その心情を私小説として真摯に描いていけば、たしかに自ずと主人公が生きる時代や社会との関係をも描くことにつながっていくだろう。それは、いかに特殊な姿をしていようと、ある意味では時代を象徴していると言えるのかも知れない。