杉本純のブログ

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永井玲衣『水中の哲学者たち』

「人それぞれ」は言わない

永井玲衣『水中の哲学者たち』(晶文社、2021年)を読みました。

哲学的なテーマについて、数人がファシリテーターと語り合う「哲学対話」。本書は、哲学対話のファシリテーターをしている著者による哲学エッセイです。

私は哲学にはそんなに興味はありませんが、哲学対話なら少し興味があります。日常生活における対人関係では、私は「人それぞれ」で何でも片付けるタイプで、いうなれば個人主義です。しかし哲学対話では「人それぞれ」は言わないことになっており、相手の声に耳を傾け、対話し、理解し合うことを大切にします。

どうして私が「人それぞれ」と思うかというと、私の意見はたいてい、細かいことを気にしすぎだと面倒がられ、無視されることが多いので、だったらもう各自で好きにすればいいじゃないか、となるからです。余談ですが、森鷗外は若い頃は議論好きだったもののある時期から議論をしなくなったらしい。もしかしたら、どこまでも細かく、徹底的に議論しようとし過ぎるところが疎まれた経験があったのかもしれない、などと私は考えたりもします。しかし、哲学対話がとことん対話をするという方針なら、いちど徹底的に対話してみたいなぁ、という気持ちがないではありません。

さて本書。実は仕事の関係で手に取った一冊でしたが、哲学的な対話というのはけっこう大切だと思いました。いや、「哲学的」などと言わずとも、なんでも事実と論理で整理するのではなく、そこからはみ出す部分や感情は、やはり大事じゃないかと。まぁ、人間はそういう部分があるがゆえに往々にして失敗するで、仕事などでそういうのに付き合わされるのはストレスなのですが…。とはいえ、例えば小説は人間のそういう面を描くのが本義だろうという気持ちは強いです。