杉本純のブログ

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ユートピアとディストピア

作家への愚問

9月24日に放送されたEテレ芥川賞を読む。~“正しさの時代”の向こうへ~」を見ました。芥川賞の歴史で初めて、候補者が全て女性だったことを切り口に、その五つの文学作品を通して現代を読み解こうとする番組でした。

五作品とも、主人公を取り巻く環境とその価値観の背後に「正しいこと」があり、作品はその正しさへの疑義を呈することが主眼になっているらしいです。私は最新の芥川賞受賞作を久しく読んでいないので、まずはそれらの作品を読みたいと思いました。

特に読みたいと思ったのは、山下紘加『あくてえ』、鈴木涼美『ギフテッド』、小砂川チト『家庭用安心坑夫』の三作でした。それはもちろん面白そうだなと思ったからですが、あくまで番組を見てそう思ったのです。高瀬隼子の『おいしいごはんが食べられますように』と年森瑛『N/A』がどうして読みたいと思わなかったのかというと、世間の「正しさ」に違和感を覚えたり、苦しんだりする主人公と、それを描いた作者が、「私の方が正しい」と言いたいのではないかと感じたからです。けれども、まあとにかく五作品とも読みたい。

番組には鴻巣友季子などが出てコメントを述べる場面がありましたが、五作品の部分的朗読と、作家本人のコメントの方が多く出ていました。朗読の場面は、ずいぶん演出に凝っていた気がします。

番組の最後、自分にとってユートピアディストピアは何か、という質問を投げる場面がありましたが、それは愚問だろうと思いましたね。そんなことを聞いてどうするんだろうという類いの、聞いても何の意味もない質問で、番組づくりをする人の文学に関する素養の無さを感じる質問と言えます。