杉本純のブログ

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モーリス・センダック『父さんが かえる 日まで』

恐るべきは大江健三郎

モーリス・センダック『父さんが かえる 日まで』(アーサー・ビナード訳、偕成社、2019年)を読みました。読んだきっかけはもちろん大江健三郎『取り替え子』(講談社文庫、2004年)です。本書はヨーロッパの伝承である「取り替え子(changeling)」を作品化したもの、という認識ですが、センダックの伝記的事実を含む本書の成立事情は知りません。

ちなみに本書は原題が“Outside Over There”で、日本では福音館書店から『まどのそとの そのまたむこう』という題でも出ていたらしい。

お話は、主人公のアイダが母親と赤ん坊の妹と家に住んでいて、船乗りの父親が遠くへ行ってしまい、母親は遠くをぼんやり見ながら夫の帰りを待っている。アイダがホルンを吹いている間にゴブリンが忍び込んできて妹をさらってしまい、代わりに氷でできた妹のそっくりさんを置いていく。さらわれたことに気づいたアイダはゴブリンの棲み処を探しに行き、波乱があるものの、最後は無事に妹を取り戻す。だいたいそんな内容です。

面白かったですが、恐るべきはやはり大江健三郎で、絵本から抽出できる「取り替え子」という主題を長篇小説に持ち込む感性と技術がすごいと思います。