杉本純のブログ

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大江健三郎と「忠叔父さん」

大江式「人物再登場法」

大江健三郎の『取り替え子』(講談社文庫、2004年)には、大江本人に違いない主人公・古義人の弟である、親戚から「忠叔父さん」と呼ばれる人の話が出てきます。

私はその箇所を読んで、ああこれは『キルプの軍団』(講談社文庫、2007年)に出ていた人と同じじゃないか、と思いました。

「忠叔父さん」は、『取り替え子』では「高卒で警察に入り、永年暴力犯担当の刑事をやってきた。」と書かれています。『キルプの軍団』でも同じ設定です。あちらでは「暴力犯係長」と書いてありました。

私は『キルプの軍団』を先に読んだのですが、そちらでは「忠叔父さん」にルビが振られていなかったはずです。それで私はてっきり名前の読みを「ただし」だと思っていたのですが、『取り替え子』を読むと、「ちゅう」とルビが振られています。これはもう『キルプの軍団』の方も「ちゅう」と読むべきなのだろうと思います。

大江本人には実際に刑事を務めた四歳下の弟がいるようです。まあ、大江文学のファンからすると上記のことはほとんど常識なのでしょうけれど、大江作品は気が向いたらちょくちょく読んでいるだけの私にとってはちょっとした発見でした。

とまれ、これは大江による一種の「人物再登場法」の実践です。もちろん他にも再登場している人はいるわけですが、やっぱり複数の小説にまたがる(主役級ではない)人物の存在というのは興味深いですね。