独自の世界
大江健三郎『取り替え子』(講談社文庫、2004年)を読みました。これは2000年に同社より刊行されたものの文庫化になります。
映画監督の塙吾良の死をめぐり、国際的な小説家である長江古義人を中心に繰り広げられる死と再生の物語。大真面目でありながら、時にすべてが冗談であるのかと思わせるような、絶妙な「語り」がすごいです。深刻なようでいて明るくもあり、時にユーモラス。その自由自在さ。「田亀のシステム」などの特徴ある小道具の差し込み方も巧みです。
同時代の他の小説家はもちろん、日本の近代以降のどの小説家たちとも違い、また純文学とエンタメという区別によって分けられるのでもなさそうな独自の世界を築き上げているのじゃないか、と思いました。