杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

思い出の品々

私の「銀の匙

先日、実家から送られてきて以来ずっと開封せずにいた段ボール三箱をついに開封しました。幼少期の思い出の品々を、親がまとめて放り込んで保管していたもので、このたび身の回りの品々を断捨離する過程で、本来の持ち主である私にあとは任せる、ということで送ってきたのです。

中勘助の『銀の匙』を私は学生時代に友人に贈られて読みましたが、今ではほとんどその内容を覚えていません。たしか、抽斗から出てきた銀の匙から幼少期の記憶へとつながり、それを綴っていく自伝風の内容だったと記憶しています。筆致は、抒情的で美しいものだったと思います。

今回、私が開封した段ボールの中にあった品々は、まさに中にとっての「銀の匙」のように、数十年前の記憶をいくつも呼び起こしました。しかし、今の私に幼少期の記憶を一つずつ思い返して懐かしむ余裕はないようで、あまつさえ、クラスの文集に思い出したくもない嫌いな奴や、またその逆の、決して私のことを思い出したくないと思われる人の名前も見て、ちょっと複雑な気持ちになりました。

また、思い出の品を見るたび、その品に関係する時代のことが思い出されましたが、その大半は嫌な記憶でした。かねて私は、自分の幼少期は明朗快活に過ごした楽しい時期だったと思っていました。しかし実際はそうではなく、むしろ辛いことや嫌なことの方が多かったのではないかという気さえしたのです。

やはり人間というのは自分の過去を美化し、甘い思い出にしてしまう習性があるのではないか。あるいは私という人間が、いろんな物事を悪いことと捉えてしまう性悪説のネガティブ人間なのかもしれません。