杉本純のブログ

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北村薫と宮川一夫

不可能な撮影

北村薫『謎物語』(創元推理文庫、2019年)を拾い読みしています。内容はミステリに関するエッセイで、北村先生らしい、柔らかいが鋭い語り口を通してミステリと謎の美味しさを味わうことのできる本です。

その「第五回 謎解きと物語」は、スティーヴン・キングの『ダーク・ハーフ』の「作者が頭の中で作った人格が、作者を殺しに来る」というアイデアが、S・A・ステーマン「作家の最期」やレスリー・P・ハートレーの「W・S・」という短篇でも使われていることから語り出され、トリックと物語の関係についての話に及んでいきます。

そして、映画カメラマンの宮川一夫が、恐らくは黒澤明の『羅生門』で使った撮影トリックがジョン・フォードを驚かせた、というエピソードが紹介されます。森の中を走る馬とそれに乗る三船敏郎?(『羅生門』ではないかも知れない)にピントを合わせたまま撮影し続けるのは不可能なはずなのだが、どうしてそれができたのか、というフォードの驚きです。このトリックが面白い。

その話は、宮川一夫を取り上げたNHKスペシャルキャメラも芝居するんヤ」に出ていたそうで、北村先生自身もまた聞きに聞いたそうです。番組は、ニコニコ動画で番組を見ることができるようです。