杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

柳川一「三人書房」

柳川一「三人書房」を読みました。この小説は、若き日の江戸川乱歩が営んでいた「三人書房」という古本屋を舞台にしたミステリです。殺人事件は起きませんが、松井須磨子自死に関わる巷間の事件を追究する内容になっています。第18回ミステリーズ!新人賞受賞作です。

語り手は井上勝喜という、乱歩の鳥羽造船所時代の同僚です。物語の舞台は大正8年で、乱歩はまだ探偵小説家としてデビューする前ですので平井太郎という名ですが、井上は「彼は既に、江戸川乱歩だった」と述べる。それほど、本作を巡って平井が示した謎解きの手腕がすばらしい、ということでしょう。

事件は松井須磨子が送ったと疑われる手紙の出現で始まります。手紙の送り主の名が『源氏物語』に絡めた謎になっていたり、当時よく起きた心中事件や自殺のことが言及されたり、藝能記者が出てきたりします。最後の種明かしは、読むと乱歩がいい人に見えます。